第16話 滑稽すぎて泣きたい





ぐらり。

視界が揺れた。



「何してるんだお前は!」



ギリっと強く握られた手首。

俺は後ろへと引っ張られた。


突然のことに一瞬、頭が真っ白になる。

おじさんも同じようで、俺の手を離して唖然としている。



どのくらいの間、固まっていたんだろう。


ようやく動き出す思考回路。

俺は後ろを振り返った。



「え…昨日の…」



どくり。



脈が大きく動き出すのがわかる。


息が溢れて苦しい。

体温が一度ほど上がった気がした。



俺の手首を引っ張った人物は、会いたくて堪らなかった昨日の男だったのだ。



なんで。なんで、今。

今になって現れたんだよ。



やっと…やっと楽になれそうだったのに。







そうごねる想いは、果たして本心なのだろうか。






「何だよ…もう名前忘れたのか?」


「…忘れてない。拓夢…」


「…ん。」



俺が名前を呼ぶと、嬉しそうに小さく笑った。


…やめてくれ。そんな風に笑わないで。


何だか顔が暑い。

俺は拓夢から目を逸らした。



そんな俺が気に食わないのだろうか。

拓夢は俺の顎を掴み、目を合わせた。



「…こんなおっさんと、何しようとしてた?」


「え…」


「ヤろうとしてたのか?」


「…関係ないだろ」


「否定しないんだな」


「あんた、うるさい」



夜の公園に男が3人。

そのうちの2人は睨み合い、1人は突っ立ったまま。


あぁ。なんて滑稽なんだろう。


どうして。



どうしてこいつは、俺を離してくれないんだろう。





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