第11話 俺のじゃないから埋まらない






小さくてボロいアパート。

時間が遅いせいか、どの部屋にも明かりが灯ってない。


錆びついた階段を登って、2階の一番端の204号室の鍵を開ける。



ガチャ…



軽いドア。きっと簡単に壊れる。


ただいま、なんて言わない。

だって誰もいないから。



俺は去年の高1から、一人暮らしをしている。


父親は離婚して、絶縁関係。

母親は再婚して、新しい家庭で暮らしている。

俺の親は母親の方だ。


だけど。



母親と再婚相手とその子ども。

仲のいい3人。

そこに俺は馴染めなかった。


…ただそれだけ。



制服のポケットから携帯を取り出すと、光っていた。


メールが来てる。

母親の再婚相手…榊原さんだった。



『生活費振り込んでおきました。たまにはこっちに顔出しにおいで』



…頼んでないのに。

毎月振り込まれる生活費。



俺は一時期バイトしまくってた時期があって、その残りがまだある。

それにこのボロいアパートに住んでいるし、使う金なんてたかが知れてる。


振り込まれてもその金は、ほとんど手をつけていない。

どんどん貯まっていくお金。






俺のじゃないお金。






たまにはこっちに顔出しにおいで。


何回言われた言葉だろう。

…どうしてこのメールを榊原さんが送ってくるんだろう。


母親は、もう俺と連絡を取りたくないんだろうか。



『いつもありがとうございます。でも必要ないので気にしないでください。時間のある時に顔出しに行きます。』



何回この返信をしたんだろう。


どこまで行っても並行で、きっと交わることはない。

榊原さんの好意を俺は受け入れられない。



戸籍上の家族。

それ以上でもそれ以下でもない。


俺には、それ以上になることは無理だった。



いつものこと。それなのに。


今日は余計に虚しかった。

さっきまでの温かさが嘘みたいだ。



ボスっと布団へと倒れ込む。

薄っぺらいし、冷たい。


…あぁ。馬鹿みたいだ。



自虐気味に笑って俺は目を閉じた。







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