第10話 気を付けて帰れよ








「あのさ…あんたは何がしたいわけ?」


「わかんない…」



…チッ。


あぁもう、イライラする。

俺は思わず舌打ちした。



「あんたさ、別にセックスしてくれるわけじゃないんだろ?」


「………。」


「俺、無駄な時間使いたくないわけ。ヤれないなら、帰る。寝る。離して」


「そのまま帰るのか?」


「そう言ってるじゃん…」


「そうか…この後誰かとヤるのかと思った」


「誰かさんのせいで、そんな気は失せたよ」



だってあんたに触られた後じゃ、きっと物足りないから。

あんた以上に温かい手は無いだろうから。


今日はきっと満足しないから、帰る。



「名前なに」


「…は?」


「俺、拓夢。拓は手編に石で、夢は夢。お前は?」


「…まこと」



あぁ…どうかしてる。

今日の俺は、やっぱり変だ。


セフレならまだしも、見ず知らずのノンケに名乗るなんて。



「漢字は?」


「…平仮名でまこと」



けど、1つ嘘を付く。


本当は、真琴。平仮名なんかじゃない。

いつもセフレ相手に名乗る時は、そうしている。


弘樹にも、そう言ってた。



「おっけ。ありがと」



満足したらしく、拓夢は手を離した。



「んじゃ。またな、まこと。気を付けて帰れよ」


「あぁ…」







気を付けて帰れ、か。





温かい言葉。

泣きたくなるのは何でだろう。


きっと向こうは何の意味も無く言ったんだろうけど。



あぁ…やっぱり誰かとヤるべきだったな。

家に帰りたくねぇよ。



幸せな時間は早く過ぎていくものだって、知っていた筈なのに。






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