今、逃げ出したい危機。




「リア、アンジェやりなさい。」


サルファがそう命じると、リアとアンジェが漆黒の龍を押さえ込む。


「サジェス、やっちまえ!」


「は、はい!」


そして押さえ込んだリアがそう言うと、何処からともなくサジェスが現れ漆黒の龍に組ついているリアとアンジェごと水をぶっかける。

するとまるで墨を垂らしたような漆黒が水に溶けておちていく!




「あああ、せっかく綺麗に塗れた墨がぁ!?」


どうやら本当に墨を塗っていただけのようだった、そして墨が落ちたあとから銀色に輝く鱗が現れる。


「ほら、目を開けなさいな!」


「い、嫌です、絶対に「あら、キャロちゃんが綺麗なドレスを着て手を振ってるわ?」なんですと!?」


サルファの言葉に漆黒の龍は目を見開く、そこにすかさずサルファが指を滑らすとその指には赤いカラーコンタクトが乗っていた。

そして墨が落ち、カラコンが取れた漆黒の龍の姿は、銀色の鱗を持ち青と金色の目を持つ龍だった!


「やっぱり旦那様じゃないですか!」


そう、なんと漆黒の龍の正体はドライトだったのだ!


「他人の空似です、ほらあそこにドライトさんが居ますよ!」


明らかにバレているのにドライトは往生際が悪くサルファの背後を指差す、そこにはドライトがピコピコと手を振っていた。

それを見たサルファは背後に居たドライトを抱き抱えて捕まえると、正面のドライトに言う。


「それで旦那様は何をしてるのです。」


「……ドライトさんを捕まえたんですから私は解放するべきでわ?」


「(ニッコリ)あら、面白いことを言いますわね。」


サルファはそんなドライトの言葉を笑顔で拒否すると、そのまま先程の質問の返答をするように視線でうながす。




そしてドライトの答えが―――




「他の世界でろくに遊べなかったから、バレないように変装していただなんて……」


「ドライト様、私の世界でクイズ大会を1週間やってませんでした?」


サルファは飽きれ、サジェスは不思議そうにそう聞く。

ちなみに邪神達はと言うと、6本の腕と足を持つ邪神が潰れたときに全部一緒に潰れていた。


「しかしハザさんの世界って何でこんなに邪神に狙われているんですかね? 邪神ホイホイでも仕掛けてみますかね。」


ドライトがそう言うと、分身体達がゴキブリホイホイにソックリだがやたらとでかい物をそこらに辺に設置していく。

それを見ていたトラウィスピアの神々はハッとして正気に戻ると、管理神であるトラウィスが代表して話しかける。


「もしやあなたがドライト様ですか?」


「おや? 私の名をご存知なんですか?

そうです、私が慈愛と友愛を司ってはいないドライトさんですよ!」


司ってないなら言わなくてもいいとは思ったが、それを言うと揉めると思い無視をすることにするトラウィス達。


「それでドライト様はなぜこの世界が危機を迎えているのを知ったのですか?」


「へ? そんなの知りませんよ、私はそこのコニアちゃんに召喚されたのです。」


そう言ってドライトはコニアをむんずと手に捕まえて持ち上げる、コニアは悲鳴を上げて暴れるがドライトとトラウィスの前に持ち上げられ泣き出してしまう。


「た、食べても美味しくないです! 誰か助けて!」


「食べたりしませんよ……ちょっと貴女を確保しときたくて捕まえただけです。」


コニアの叫びにピアは石を拾って投げつけようとして祖父母に慌てて止められていて、シムスとリュヌは剣を抜いたところで他の者達に止められていた。


「何故その少女を? いやそれよりもどうしてこの世界に?」


「それが私にも分からないのです、そこにあるこれ、この銀色の魔石と思われる物に私が引き寄せられちゃうのですよ!」


そう言ってコニアの首から下げられている銀色の魔石を指差す、それを見たトラウィスは確認のために魔石に手を伸ばすが―――


(バシン!)


ドライトに叩きおとされてしまった、しかも結構な勢いで!




「ギャアァァァ! メチャクチャいてえ!」




叩かれたトラウィスは腕がもげかけないほどの痛みを感じて、地上を転げ回る。


「女性の胸元に手を伸ばすだなんてエッチな神様です!」


「いや、トラウィスはその魔石を取ろうとしたんじゃ……」


「そうだったんですか? それならそう言ってくれないと。」


サジェスがそう指摘するとドライトはキョトンとしてそう言う。


「旦那様、分かっててやったでしょ? ……何かしら?」


トラウィスに変わってサルファが手を伸ばすと、ドライトがまた手を叩こうと自分の手を上げるが、サルファに一睨されるとサッと手を引っ込める。


そしてサルファは銀色の魔石を手に取ると、悲しそうにしているコニアにあとで返して上げるっと言ってコニアの頭を一撫ですると、魔石をシゲシゲと見始める。


「不思議な魔石だろ? 何でこれでダーリンが召喚されちゃうんだろうな?」


「……夫と同じ色の魔石……本当に不思議な魔石。 ……っと言うことにしておく。」


「リアは少しは考えなさいな! アンジェは解っているのならセレナ様なりシリカお姉様なりに連絡なさいな!」


サルファは何も考えていないカーネリアを怒り、しっかりと何かに感づいているアンジュラをもっと怒る。


「え?え?え? 姉御も何で怒られてるの?」


サジェスはビックリしてそうサルファに聞くと、サルファはコイツもかとため息をつきながら説明する。


「サジェスさん、貴女も知識の神を名乗っているのですから疑問を持つなり調べるなりですね……何にしろアンジェの言う通りに旦那様と同じ色で旦那様を召喚するこの魔石、旦那様が関わっていないはずはないわ。」


「へ~姉御、だそうですよ!」


「調べる……のは面倒だから、アンジェ教えろ。」


「……セイネ、カモン。」


教えろと言われたアンジュラだが、しゃべるのが面倒のようでセイネを召喚して自分は人化してやって来たセイネが用意した椅子とテーブルに座ってお茶を始めてしまう。

そこにサジェスとカーネリアもアレナムを喚んで座ったのを見て、サルファはコイツ等はダメだと思いながら自分の筆頭眷族神を呼ぶ。




「サルファ様、リティアはここに。」


するとサルファのすぐ隣に腰までブロンドの髪を伸ばした、魔法使いのようなロープを着たリティアと名乗る少女が現れる。


「リティア、この魔石を解析してちょうだい。」


「は、はぁ……でもこれって。」


リティアはサルファから魔石を受け取ると、一目見てこれをですか? っと、問いかけるような顔をサルファに向ける。


「どうしたの? それが何故に作られたのか、そして自然発生でないなら誰が作ったのかの見解を貴女から私は聞きたいのよ?」


そう言うサルファにリティアは困った顔で答える。


「でもこれ先月位にドライト様が高笑いしながら生産してましたよ。 これで色々な世界に遊びに行けますって言って。

……あら? そう言えば作っただけで飽きて、倉庫に仕舞っていたような?」


リティアの言葉にサルファは驚きドライトを見ると、ドライトはすでに消えていた。


コニアを連れたまま……


「な、なんで旦那様は逃げられて……って、拘束していたリアとアンジェが手を離してお茶していたら当たり前じゃない!」


「おお! お茶に夢中になっちまった、レディーとして!」


「……セイネのお茶は絶品。」


ドライトに逃げられたサルファとトラウィスは呆然としていたが、そんなトラウィスにカーネリアの横でポリポリとクッキーを食べていたサジェスが言う。


「ってかさ、トラウィスは良いの?」


「ん? 何がだサジェス。」


「いやあんた気がついてないの、あのコニアって子は勇者と聖女の素質を持ってんじゃん。

だからドライト様も離さずに連れてっちゃったんでしょうが。」


「な、なんだとー!」


トラウィスの叫びが響くなか、ドライトはコニアを誘拐して去っていたのだった。



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