今、来ちゃった危機。




『跪け、矮小なものよ。』


漆黒の龍が魂に直接、命じてくる。


20メートルは有る体、そして震えることすら許さないほどの圧迫感。


さらには魂に直接命じられた事でそこに居た者は邪神を除いて全て頭をたれるのだった。




『我を呼び出したのは何者ぞ、前に進み出るが良い。』


漆黒の龍がそう言ってコニアを見てくる。


その龍の体はまるで墨を垂らしたかの如く黒く、目はまるで血の塊のような赤だった。

そして何と言ってもその体から発せられる邪悪な気配は、明らかこの龍が邪神の仲間だと確信させるものだった。


『はよう前に出るが良い、そして汝の悪夢を我に見せるがよいぞ。』


漆黒の龍の言葉にコニアは歩き出す。

コニアの意思とは関係なく足が動き漆黒の龍の前に向かう、コニアの視線の端にピアと老夫婦が泣きながら何かを言っている。

そして逆側ではシスムとリュヌが必死の形相でプルプルと震えていた。


ピアと老夫婦は行ってはいけないと訴えているのだろう。

シスムとリュヌは何とか助けようとしているようで泣きながら体を動かそうとしている。


そしてコニアがあと数歩で漆黒の龍の前に出ると言う直前に、叫び声と共に凄まじい雷撃が漆黒の龍に降り注いだ。


「我が子に手出しはさせぬ!」


その叫びと雷撃と共に現れたのはこの世界の管理神であるトラウィスだった。

彼はまるでギリシャ神話に出てくる神々のような武具で身を固めて漆黒の龍を睨み付けていた。


そしてトラウィスの周りに次々とその眷属達が現れるが、漆黒の龍の近くに居た邪神も援軍を呼んだのかそばに邪神や魔人が現れる。


現れた神々とその眷族に邪神と魔人達。 よくよく見るとその装備や体には多数の傷が有り激戦を繰り広げていたのが分かる。


「邪悪な龍など始めて見たが、我が子達に手出しはさせぬ!」


トラウィスはそう言うと剣を抜き漆黒の龍と邪神に向ける。




『この世界の管理神か、跪け。』




だが漆黒の龍がそう言うと、トラウィス達は地上に叩きつけられた。


『我は黒きものより生まれいでた力有る者なり。 矮小なもの達よ、弱ければ跪き許しを請うのだ。』


地面に叩きつけられたトラウィスは信じられないものを見る目で漆黒の龍を見る。

確かに自分は力の有る神ではないが、この世界を創造されたハザ様に管理を任せられるぐらいには力には自信が有った。


だが今、この目の前に居る龍は言葉だけで自分と眷族達を地面に叩き落としたのだ!


『まずい、この龍の力は想像以上だ!』


トラウィスは龍の力に戦慄し、邪神達はニヤニヤと笑い始める。

そしてその瞬間だった、突然に漆黒の龍が自分の周りに漆黒の霧を産み出すとそこに凄まじいブレスが叩きつけられる!


『……ふむ、中々の威力であるが、まだまだであるな。』


「龍を名乗る痴れ者のクセに私のブレスを防ぐとは……」


そこに居たのは蒲公英色の美しい龍だった、漆黒の龍には及ばないが充分に力が有ることを感じさせるその龍に、トラウィス達は歓喜する。

何者かは知らないが、力有るこの龍が来たと言うことは原始の神々や龍達にこの世界の現状が知れて援軍が来たと思ったからだ。


「あなたがこの世界の管理神であるトラウィスさんですね、私の名はサルファ、旦那様が行方知れずになったので探していてたまたま魔神を見つけて消滅させたら、この世界の事に気がついたのです。」


サルファは漆黒の龍から目を離さずにトラウィスにそう告げる。

その言葉にトラウィスは喜色の顔で言い放つ。


「おお! 皆聞いたか、これでハザ様が、原始の神々や龍達が援軍に来てくれるぞ!」


「「「おおお!」」」


トラウィスの言葉に神々や天使達に、いつの間にかやって来た様々な種族の英雄や勇者達が歓声を上げる。

だがサルファが冷静にそれを押し止める。


「ごめんなさい、連絡が取れたのは合流する予定だった妹達だけなの、リアとアンジェは何とかこの世界に入り込めて今ここに向かっているけど、他の龍や神々とは連絡が取れていないわ。」


サルファの言葉に神々の指揮は落ちるが、トラウィスはそんな眷族を鼓舞して言う。


「なんの! サルファ殿と同等の方が2柱来ると言うのならもはや勝ったも同然、皆も気合いを入れよ! 邪神達を討ち滅ぼすのだ!」


「「「おおおぉぉ!」」」


トラウィスの言葉に再度指揮が上がる、そんな神々とサルファに漆黒の龍が言う。




『ふむ、確かにソナタの力は中々だ、だがソナタとその弱者達が集まったところで我に勝てるとでも?』


「それはやってみなければ分かりませんわ。 リア、アンジェ!」


サルファの叫びと同時に漆黒の龍の左右から、先ほどと同等のブレスが2つ撃ち込まれる。

そしてサルファもそれに合わせて正面からブレスを放つが、先ほどと同じ様に漆黒の霧が龍の周りに現れると3つのブレスはまたかき消えてしまう。


「……3人で無理だなんて。」


「ッチ! なんだ今の霧は!」


「……ブレスを異界に送った……違う、別の力?」


そこには深紅の龍と天色の龍が居て、サルファと3人で漆黒の龍を囲むように飛んでいた。

リアと呼ばれた紅い龍は単純に悔しがっていたが、天色の龍は今の現象を見破ろうとしていた。


『ふむ……中々だが我にはその程度では届かぬ。

それよりも今は、そこに居るお主だ。 さぁ、お主の悪夢を私に見せるのだ。』


だが漆黒の龍はそんな3人の龍から興味をコニアに戻すとコニアに前に来るように言う。

視線を向けられ、そう言われたコニアは真っ青になりながら漆黒の龍の元へと再度歩き始める、そしてそんなコニアは―――


『ああ、ここで死んじゃうのか。

あの銀色の魔石がこんな化け物を呼んじゃうだなんて、考えもしなかったなぁ……あれ、そう言えば足が痛くないなぁ、折れてたはずなのに。』


―――っと考えて自分の足を見ると、骨折していたはずの足は綺麗に治っていた。




『さて、お主が我を召喚した者だな? お主の悪夢を我に見せよ、絶望を我に見せるのだ!』




そう漆黒の龍が叫ぶと、空中に映像が浮かび上がる。

それはコニアが赤ちゃんを抱っこしている映像だった、コニアは幸せそうに微笑み赤ん坊をあやしている。


そんなコニアが顔を上げると、シスムとリュヌが手を振りながら近づいてくる。

どうやら赤ん坊は2人の子のようだ、そしてシスムとリュヌの背後にはピアに手を引かれた老夫婦と他にも子供や家族連れが楽しそうに歩いてくる、それを見て皆が理解する。

これはコニアが夢見る幸せ、シスムとリュヌの子になり弟か妹をあやし、農家の老夫婦やピア達に孤児院の兄弟達と幸せに暮らす。


そんな誰もが夢見る当たり前の幸せ、漆黒の龍は悪夢と絶望を見せろと言ったのにいったい何故にこんな幸せな映像が? っと皆が不思議に思った瞬間、映像の中で青く晴れてた空が真っ黒になる。


「う、うそ……止めてぇ!」


全員の予感が当たり、黒い空から魔人が降りてきて人々を惨殺し始める。

それは現実にしか見えない映像で、まさにコニアの悪夢と絶望を映し出していた。

コニアは絶叫しながら漆黒の龍にそう頼むが、漆黒の龍は映像を見ていなかった。


「はい、ドライ軒です。 ああ、3丁目の盤古さん、何時もありがとうございます。 出前ですね、ラーメン4つに炒飯2つ、カツ丼が1つですね。

ええ、30分もかからずに行けると思いますんで、ありがとうございまーす。」


そう言って受話器を置く漆黒の龍。

そして漆黒の龍が電話に出た当たりから体長1メートルほどの小さな漆黒の龍が多数現れてジャンジャン調理をしている。


「3丁目の盤古さん、ラーメン4つに炒飯2つ、カツ丼が1つ!」


「「「ラーメン4つに炒飯2つ、カツ丼が1つ、ありがとうございまーす!」」」


小さな龍達がそう言ってあっという間に調理し終わると、安くて早くて美味い、ドライ軒! と書かれた岡持ちに入れて飛び出していった。


それをサルファ、カーネリア、アンジュラは覚めた目で見ており、コニア達やトラウィス達は何が起こったのか訳がわからずに呆然としている。

そして漆黒の龍は全員が唖然として自分を見ているのに気がつくと、目を細めて周りを威圧しながら言う。


『……フハハハ、汝の悪夢と絶望は分かった、存分に味わうがいい!』


そう漆黒の龍が叫ぶとあっという間に黒い空は晴れ、ピアや老夫婦、シスムにリュヌの怪我が治る。 しかもシスムとリュヌは欠損した手足も綺麗に治っていた。


『えー、赤ちゃんに関しては時間がかかりますしお二人の努力も関係しますので気長にお待ちください。』


そう言う漆黒の龍に、まだ近くに居た6本の手足を持つ邪神が慌てて話しかける。




「ま、待て、子供が生まれるまで悪夢と絶望を与えないと言うのか、バカなことを言うな!

先程の映像のようにこの者達を皆殺しにするのだ!」


そう言う邪神に対して漆黒の龍は何を言っているんだこいつは? っと言う風に答える。


『皆殺しにしろ? そんな悪夢と絶望を我は見ておらん! この者の悪夢と絶望はそこの2人の子になり、弟か妹をあやしながら皆と幸せに生きることだ!』


うん、出前の注文を受けていたから後半を見ていなかったよな。


皆がそう思ったが、余計なことを言わない方が言いと感じて黙る。


だが邪神は激昂して叫ぶ、が―――


「そんな悪夢と絶望が有るか! 貴様! 邪悪な波動を感じるが、お前は本当に邪神に連なるも『と言うか貴様は何故に跪いておらん? 跪け!』ギャアァァァ!?」


―――っと話の途中で跪かさせる、が、勢いが強すぎたのか邪神はそのまま潰れてしまった!


『この私に弱いどころか邪神は跪かないとはとんでない話ですよ、プンプンです!』


そしてそう言って怒る漆黒の龍に、サルファ達はニッコリと笑いながらも、物凄い怒りのオーラを出すのだった。



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