知恵の神と知識の神




「フハハハ!我を呼び出すとは良い度胸だ!ですよ!」


マクライは制御が効かなくなった魔石を異界へ投棄しようと考えた。

だがこの貴重な魔石を失っても?っと一瞬考えてしまい、その一瞬で魔石は光輝き、銀色に光る竜が現れてしまった!


竜は辺りを見回すように首を回すと、偉そうにふんぞり返ってそう言ってくる。


「あ、あなたは何者ですか!?」


突如現れた竜に、マイアリルは警戒しながら何者か問う。


「我こそ偉大なる知恵の神……サジェスである!です!」


「「「サ、サジェス様!?」」」


「フハハハ!崇めてもいいのですよ!?」


なんと現れた銀色の竜は、この世界バルドニアで主神と崇められている、サジェスの名を名乗ったのだ!




「サ、サジェス様ですか?」


「そうですよ?嘘なんかついてませんよ?」


うん、すごい嘘っぽい。


銀色に輝く竜だがそのサイズは30センチほどで、キョロキョロと辺りを興味深そうに見ている。

そしてその姿を何人かが鑑定していた、マクライももちろん鑑定したのだが結果は下級竜サジェスと出ていた。


マクライは近くに居るアテクトリスとザラマゥエンに視線を送り、2人がうなずくのを確認するとマイアリルに念話で指示を出す。


『マイアリル君、君から色々質問してみたまえ、本当に神なのか確認してみよう。』


『は、はい、先生!』


指示を受けたマイアリルは警戒を強めながら、1歩前に出て質問をする。


「サジェス……様?質問をしてもよろしいですか?」


「かまわんぞ?なんと言っても知恵の神だからな!ですよ!?」


なんかしゃべりも変だと感じながら、マイアリルはまず魔法の分野について質問をしてみる。


「ではまずは……魔法と魔術の発動についてですが魔法は印が無くても発動します、魔術は印が無ければ発動出来ません、それは何故なのですか?」


マイアリルの質問を聞いた知恵の神サジェスはウンウンうなずきながら答える。


「なかなか高度な質問です!

まず魔法についてですが魔法はイメージです、火を出す、水を出すなどの現象を精神力で魔力や魔素に干渉して起こします!

そのため精神状況や知識などにより左右されます、なので不安定になりますが発動させようとした者の精神力や知識がしっかりとしてれば問題なく発動します!

逆に魔術は式と陣に依存し、式と陣をしっかりと書かなければ発動しません、これは式と陣の形に沿って魔力や魔素が流れる事により、魔力と魔素がそれぞれの現象に書き変わるからです!」


スラスラと答える知恵の神サジェス、これはバルドニアの魔導師なら常識だったがここまで簡潔に分かりやすく答えるとなると、かなりの知識の持ち主だと考えたマイアリルだったが、次の質問に答える前に知恵の神サジェスが続ける。


「っと、この世界の知識ではそうなってますが違います。

魔法も魔術も……気合いと根性です!あれ?信用できませんか?ならこれでどうですか?」


思わずマイアリルや実験室に居た面々は、何を言ってるんだこいつ?っといった顔で見ると、知恵の神サジェスはそう言って指で空中に魔術陣を書き始める。

そして陣が完成するとその陣は陣の形のまま燃え上がる、それを見てマイアリル達は驚き目を見開き声も出せなくなる。

何故なら空中に魔術陣を書くのは相当な高等技術だったからだが、その後に続けた知恵の神サジェスの行動が問題だった。


「あ、よいしょ!」


知恵の神サジェスの掛け声と共に、空中に浮かんだ魔術陣から水が沸きだした。

式が変わった訳でも、陣が変わった訳でもないのに掛け声と共に魔術陣から水が沸きだしているのだ、そして陣そのものはいまだに燃え上がっているのである。


「どうですか?気合いと根性で無理矢理魔術に干渉して現象を追加しましたよ!

なんなら炎を消して水のみに変更してみますか?」


「い、いえ、結構です……」


「ふははのは!これが知恵の勝利です!」




マイアリルだけでなく実験室に居る皆も、元老院で見ているもの達も直感した、このサジェスを名乗る者が本当にサジェスかどうかは不確かでも、恐ろしく高等な存在で自分達よりも遥かに格上の存在なのだと、だがマクライは本当に知識の神サジェスなのか確認してみたくなり、マイアリルに次の質問をするように念話を飛ばす。


『そ、そんなことを訪ねて大丈夫なんですか!?』


『……仕方なかろう?それに無理に聞き出さなくても良い、聞いてみるだけ聞いてみてくれ!』


『は、はい!』


マクライの指示を受け、マイアリルは意を決して次の質問をする。


「あ、あの、もう1つよろしいですか?」


「ふはーっはっはっは!自分で笑っててなんですが、バカみたいな笑い方ですよね?それで、質問はなんですか?」


「……え、えっと、サジェス様の伝えられているお姿と、あまりにも違うのですが、それは何故なのですか?」


「! そうですか……そうですよね……私の伝えられている姿だと……女性ですからね!私の今の姿は雄々しい男性です!これは私の父があまりにも雄々しいので、遺伝で私にもにじみ出てしまっているからなのです!

混乱しちゃいますよね!?」


「い、いえ、性別よりも前に種族が違いすぎるのですが……サジェス様はエルフ族とよく似たお姿と伝えられてるのです。」


「……そうでしたか?

あ!本当ですよ!?しかもエルフの女性型なのに髪型がベリーショートです!エルフの女性と言えば長髪なのに!

それになんで三面六臂の鬼神や闘神の姿なんですか!?知識の神を名乗ってるんですよね、この神?アホなんじゃないですか!?」


やっぱりこいつサジェス様じゃないだろ!っと、皆が感じた時だった。

実験室が突然、光に包まれたのだ!




「こらー!私の名前を騙ってるのは誰だー!?」


見事な金髪をベリーショートに切り揃えた、エルフの美少女が現れ自分の名前を騙る相手を探す。

そして知恵の神サジェスを見つけると。


「あ!お前か!?私の名前を騙って珍妙な事をしたりしてるのわ!」


「む!そう言うあなたはどなた様ですか!」


「私はこの世界で知識の神をしているサジェスだ!」


「おお、偶然ですね、同名ですよ!

私は知恵の神のサジェスです!よろしくお願いします!」


知恵の神サジェスは偶然、同じ名だった知識の神サジェスに挨拶をする。


「いや、だから私の名を……知恵の神?」


「そうです、知恵の神サジェスですよ!」


「なんだ、他人のそら似って奴か……私は知識の神、サジェスだ!よろしくな!」


なんと2人の名前は1字違いだったのだ!


自分の勘違いだったことに気がついた知識の神サジェスは、知恵の神サジェスに近づくと挨拶をしながら謝る。


「いやー悪い悪い!今ちょっと警報がでてさ?それでピリピリしてて、思わず怒鳴っちゃったんだよ?」


「警報ですか?」


「おう、銀龍ドライトって言う、とんでもない龍がな?いろんな世界のどこかに召喚される可能性が有るからって、原始の神々と龍神さまから通達が全世界に回っててさ?」


「はぁ……聞くところによりますと、銀龍ドライト様といえば慈愛に満ちた素晴らしい方だと言うではないですか?

そんな方が来るというのに、なんで警報なんかが発令されてるのですか?」


知恵の神サジェスがそう言うと、知識の神サジェスは手をフリフリ言ってくる。


「アホ!噂どころか、私はあの方と直接の知り合いから色々な話を聞いているんだからな!

傍若無人で力任せに暴れるだけならともかく、とんでもなく知恵が回って色々な技術や知識もあわせ持つから、うちの主神のハザ様ですら敵わないそうなんだぜ?

それで筆頭眷族神のアルレニス姉も、さんざんひどい目にあったそうなんだよ!」


「それはひどい話ですね!

ところで、そのひどいドライト様の姿とは、どんな姿なのですか?」


知恵の神サジェスの言葉に、知識の神サジェスは思い出すように、少し目をつぶり黙ると語り出す。




「姿は銀色で……」


「ほうほう?」


「目の色は右が青で左が金のオッドアイ……」


「なんと!?」


「お、大きさは自由自在で、10センチから100メートル以上にもなれるそうでして!」


「こんな風にですかね?」


知識の神サジェスの目の前にパタパタと浮かぶ、銀色で右が青で左が金の目を持つ知恵の神サジェスが、10センチ位になったり実験室ギリギリの大きさになる。


「は、ははは……と、ところで、あなた様のお名前は、本名ですか?」


乾いた笑いをしながら知識の神サジェスがそう聞くと、知恵の神サジェスは胸を張って答えるのだった。




「ハハハ!偽名に決まってるじゃないですか!」



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