魔導世界 バルドニア
『な、何てことだ!もっともっとあの世界で遊べると思ったのに!』
『ドライト様、諦めが肝心ですよ?っと言うか、アンジュラ様がセレナ様に報告しないで来てないはずがないので、良いタイミングだったかもしれませんよ?』
『しかしもったいなかった!あの兄妹と幼馴染の仲をかき混ぜれば面白い事になったのに!』
『それこそセレナ様にバレたら、きついお仕置きをされるかと……おや?そろそろ次の召喚ポイントに着くようですね?』
『お?ってか、なんか時間かかったな……それにこの召喚って、俺がどこに飛ばされるか自動で隠蔽してないか?』
『……みたいですね?不思議ですが、ラッキーですね!』
『そうだな、あ、リュージュさんはその事を調べといてよ!
ってか、ここってバルドニアか?』
『かしこまりました。
……確かにバルドニアですね?中央研究所の、マクライ研究室みたいですよ?』
『よーし、願わくばなにか面白い事に出くわすように!』
こうしてドライトは次の世界に召喚されてしまったのだ!
「皆の者、静粛に!久方ぶりに会ったので、研究について話し合いたいのは分かるが、今から重要な議題を話し合うのだ、どうか静粛に!」
ここは魔導国家バルドニアの中央元老院、この星のみならず、銀河のスミズミまで勢力を広めた魔導国家バルドニアの、最高意思決定機関だった。
この世界は現在の地球を遥かに凌駕する科学技術と、地球にはない魔導技術を合わせ持つ世界で、科学技術と魔導技術を融合させた魔科学という技術と知識まで持つ世界だった。
そして10年に1度の議会と国家運営に重大な齟齬が発生したか、発生する危険がある時にだけ召集される魔導元老議員が全員集められていた。
そんな中で中央の議長席に座る年老いた人物の隣に立つ若い議員が、会場の全員に静まるように叫ぶと議場は静まり返る。
そして静かになると魔導元老議長の、アテクトリスが立ちあがり静かに言う。
「知識を集め、現象を知る事こそ神の意志なり。」
「「「―――神の意志なり!」」」
「よろしい、今回はこのザラマゥエンの召集依頼に、他10人が賛同したのたで議長権限により魔導元老議員の諸君を召集した。
そしてこの召集には、マクライ議員の研究について問題ありとしている、なのでマクライ議員は前に出るように。」
アテクトリス議長は隣に立つ若い議員のザラマゥエン議員を指差し、次にその後ろに居る10人の議員を指し示すと、少し離れた所で待っていたマクライ議員を呼ぶ。
そしてマクライ議員がやって来て、議長をはさんでザラマゥエン議員と対峙するように立つと、
「では議論を開始する、先ずはザラマゥエン議員、今回の召集の理由を皆に説明して欲しい。」
っと言って席に座る。
議長にうながされたザラマゥエン議員は中央に立つと、元老議員達に向かい1礼してから発言を始める。
「親愛なる魔導元老議員の皆様、私、ザラマゥエンはマクライ議員の研究について問題提訴をさせてもいたい!」
ザラマゥエン議員の言葉に他の議案達は静かに耳をかたむける。
それを確認したザラマゥエン議員は言葉を続ける。
「我等の使命である、知識を集め現象を知ることのために皆が様々な研究をしている、もちろんそれについて私は反対するつもりは無い。
その様なことをするなら私は魔導元老議員どころか、魔導師を名乗ることすらしないだろう!
……だが、物事には倫理と順序が有ることもまた真実である!」
ザラマゥエン議員は再度言葉を切り、他の議員が意義が無いことを確認してからマクライ議員に向き直り、マクライ議員の研究について説明を求め始めた。
「マクライ議員に今の言葉を前提として説明を求める……マクライ議員、あなたいったい何の研究をしているのだ!?」
「……私の研究は皆も知っての通り、魔石や魔晶石の研究である。
それに何か問題が有ると言われるのかな?」
ザラマゥエン議員の質問に、マクライ議員は平然と答える。
その答えを聞いたザラマゥエン議員は眉を寄せてさらに発言をしようとしたが、他の議員に止められる。
「ザラマゥエン議員待ってほしい、研究の秘匿など誰でもしている事だ。
それを権力を使って知ろうとするのはどうかと思うが?」
そう言ってきた議員をチラリと見てからザラマゥエン議員は再度話し出す。
「もちろん私もそれは理解している。
官僚議員と言われる私とて研究の秘匿はしていますからな、それは皆も同じでしょう、自分の研究が盗まれないように等理由は様々でしょうが……ですが最初に言った通り、物事には倫理と順序が有る。
そしてその倫理と順序に沿って研究をしているのなら、マクライ議員は説明する義務が有る。
先月1ヶ月の使用電力量が100兆kWhを越え、魔力が300兆MPを越えている理由を!」
ザラマゥエン議員の発言に、一気に議事堂が騒がしくなる。
ちなみに、2012年の地球の総発電量は21兆kWh位なので、遥かに文明の進んだバルドニアでもその使用量は異常だった。
魔力に関しても軍が使う戦略級攻撃型大規模魔法1発で、5億MPも使わないのでその使用量はやはり異常の一言でしかない。
ちなみにこの戦略級攻撃型大規模魔法、1発で北米大陸が吹き飛ぶほどの威力がある。
なので大抵が宇宙空間での艦隊戦でしか使われない魔法だった。
なんにしろザラマゥエン議員の発言で、研究を秘匿していたマクライ議員を擁護する雰囲気だった元老院議員達は一変する。
口々に「説明を!」「そんなエネルギー量をいったい何に!?」等と非難する声が議員達から上がる。
「マクライ議員、私は先程も言ったが官僚議員と呼ばれている。
その理由はエネルギー使用量監視委員など、官僚がやるべき仕事もしているからだ……そしてそれは、私の研究テーマでもあるからやっているが、その私でも今回の件は記録と記憶に無いほどの使用量である。
この事についてもちろん説明してもらえるのでしょうな?」
ザラマゥエン議員はそう言うと同時に右手を上げる。
すると議事堂のドアというドアから武装した兵士が流れ込んできてマクライ議員を包囲する。
これはマクライ議員が何か危険な研究や倫理に反する実験をしているのではないか?っと考えたザラマゥエン議員と報告を受けたアテクトリス議長が万が一を考えて用意したのものだった。
そして自分を囲む兵士を一目見て、マクライ議員は意を決して話始める。
「……今回の一件はすべて私に非がある。
すべては私の名誉欲と執着心、そして羞恥心から起こしてしまったことだ。」
そう言って一旦言葉を切るマクライ議員、そして目をつぶると思い出しながら説明を始める。
「皆も知っての通り、私の研究のメインテーマは魔石や魔晶石だ。
そして話は3ヶ月前にさかのぼる、私の研究室に居るアテクトリス議長の孫娘のマイアリル嬢と話していた時の事だ……」
「マクライ先生、今回の魔石の研究は上手くいきましたね?」
「うむ、まさかあんな事でゴブリンの魔石にドラゴン並の魔力を保存出来るとはな?」
「はい、でも先生、次の研究は何をしますか?」
「うーむ……そうだマイアリル君、君の家に珍しい魔石か魔晶石は無いかね?」
「私の家にですか?」
「うむ、君の家は代々素晴らしい研究者を排出している家だ、当代もそうだが魔導元老議会の議長も何人も出している。
だからこそ、何かしらの新しい発見が有るかもしれん。」
マイアリルはそう言われて困ってしまう。
「先生、そうは言っても家宝や貴重な物は……」
そう言うマイアリルをマクライは手で制して続ける。
「私は新しいものをと言ったんだよ?家宝や貴重な物は調べ尽くしてあるだろう?
他の皆もよく聞くように、何か新しく面白いものを持ってきなさい、良いかね?」
ここまで言われてマイアリルや他の研究員も理解する。
これは[課題]なのだと。
「それでは皆さん、有意義な研究のために、頼みましたよ?」
「「「はい!」」」
マクライの言葉にマイアリル達は勢いよく返事をすると、早速実家に連絡するものや隣り合うもの同士で様々なスケジュールを話し合うもの達の喧騒に研究室はつつまれるのだった。
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