奴が来る!




「偉大なる神々よ……あなた方の子である我等に恩寵を……!」


ジュリーナは魔導師達や聖職者達と一緒にそう祈る、そして全員で魔力を練るのだった。


「む!?魔将達よ、あの集団を討て!何かを狙っておるぞ!?」


「させるか!お前らの相手は「ヒデト!」な、なんだマユ?」


「今は、魔王を討つのが先決よ、ジュリーナの周囲には護衛もちゃんと居るわ!任せましょう!」


豪華なロープを着た老いた魔族が周囲の魔将に指示を出し、ジュリーナ達を襲うように言う。

それをヒデトが防ごうとしたが、マユに魔王を討つのが先だと止められる。


「くっそう、なら魔王を出来る限り早く討つぞ!」


「「「おおお!」」」


ヒデトを先頭に、騎士達と冒険者達が魔王に向かう、だかそこに立ちふさがる者が居た。


「愚か共め!ここから先には通さぬわ!?」


「闘魔将か!」


「退きなさい!」


立ちふさがったのは、先ほど魔将達に指示を出したロープを着た老いた魔族だった。

その老魔族はヒデト達の前に立ちふさがるとロープを脱ぎ捨てる、そしてロープの下から出てきたのはボディビルダーの様な筋肉の塊だった、そして闘魔将とヒデト達の激戦が始まる!




「姫、魔将がこちらに!」


「地の理、水の理……今は動けません、防いで!火の理、風の理、4の理は魔の理に通じて4の理に通ずる……」


「ふははは!貴様らごとき相手にならぬわ!

ジュリーナよ、聖女などと名乗って散々に我等の邪魔をしてくれたがこれで終わりよ、死ねい!」


「防げ防ぐんだ!」


ジュリーナ達を妨害するべく、5人の魔将が突進してくる。

他の騎士よりも、細かい細工などが施された鎧を着た騎士達が、ジュリーナ達を守るために前に出る。

どうやら貴族の師弟達のようだ、彼等は決死の表情で魔将達に向かう、だが誰が見ても役不足でたいして時間を稼げそうもなかった。

それを横目で見ながらジュリーナ達は必死になって祈る。


『ヒデト兄さん、マユお姉ちゃん、ごめんなさい、ダメかもしれない……!』


自分達を守る騎士達が薙ぎ払われていく。

遠目にマユが何かを叫んでこちらに来ようとしてるのが見えるが、魔将はすでに目と鼻の先ほどにも近づいてきていた。

一瞬諦めかけていたジュリーナだが、マユの必死の形相に心を奮い立たせると何かがないか探す。


そして自分の首元を飾っている銀色の魔石を見る、これはこの世界の母が生前に偶然見つけて、ジュリーナの守り石として残してくれた物だった。

なんの魔物からか、どこで最初に見つかったのか一切分からず、ネックレスとして加工されていた物だ。

この魔石には強大で強力な魔力が秘められているのがわかっているので、守り石ととして自分が身に付けることになった銀色の魔石だった。


そしてジュリーナは、その銀色の魔石を迷いなく迫り来る魔将に投げつけたのだった!




「ドライトナックル!」




「ドライトナックル!」




「ドライト、ナックルーー!!」




そして銀色の魔石が光輝くと、1メートル程の銀色のドラゴンが現れる。


まぁ、ドライトなのだが回りの人間は力を押さえているのと偽装が見破れず、ドラゴンベビーとしか思えなかった。

そしてそのベビードラゴンは突然現れると、ドライトナックルっと叫んでジタバタしている、ドライトは華麗にパンチを繰り出しているつもりなのだが、短い腕なのでジタバタしているようにしか見えなかったのだ!


たがドライトはパンチを放った姿勢のまま決めポーズを決めている。


「……最初の一発は、私がここに来てしまったせいで食後のデザートを食べ損なったステラとルチルの分です……次の一発はお風呂で私に背中を流してもらえずに悲しんでるステラとルチルの分です……そして!最後の一発は、間違えて切りすぎたキャロの毛先の分です!」


なんだそれ?前の2つはともかくとして、最後の1つは関係がないだろ?


ここにいる全員がそう思ったが今は重要な戦いの最中なのだ、そう考え直して皆が戦いを再開し始める、そんななかでジュリーナだけは銀色のドラゴン、ドライトを驚愕の目で見ていた。

何故なら彼女の目の前に現れて、短い腕で繰り出したそのパンチは自分に迫っていた魔将に向けられたものだった、そして魔将は消えた。

吹き飛んだとかではなく、いきなり消滅したのだ。


そして何が起きたのか分かったのはジュリーナだけだった、高位の僧侶であり魔導師であるジュリーナの目の前の出来事だったからこそ分かったのだ。

そしてジュリーナの目に写ったのは凄まじい魔素がその手から放たれ、そのために魔将は消滅したと言う事実だった。

そしてその魔素の奔流は繊細なほどに偽装され隠されていた、おそらく消滅した魔将も何が起きたのか分からずに死んだのだろう。

そしてそれを見れたからこそ、ジュリーナは決断した。


「小さなドラゴン様、どうか私達と協力して世界を救ってください!」




『……突然呼び出された怒りで、思わずドライトナックル、つまりただの拳を繰り出してしまいましたがここはどこでしょうか?』


『ドライト様、ここはツィオーラみたいですね』


『おお!ニートさん、お久しぶりです!』


『私の名前はリュージュです。

ニートは私の職業名です』


『あなたの仕事は私のサポートで、ニートじゃないでしょうに……それよりもツィオーラですか?何でまたそんな所に、それにツィオーラに私を召喚出来るような方は居ましたっけ?』


『いえ、この世界の神々でも難しいはずですから、一般人だとまず無理なはずです』


『そうですよね……?』


「小さなドラゴン様、どうか私達と協力して世界を救ってください!」


『ん?誰か話しかけてきました?』


『あちらのお嬢さんが何か用があるようですよ?』


『とりあえず話を聞いてみますか……』




「こんにちわ!私の名前はドライトです、なんの変哲もないただのベビードラゴンですよ!」


話しかけてきた少女、ジュリーナの方を向き挨拶をする。

するとジュリーナが必死になってこちらに走り寄る、周りにはまだ魔族が居るにもかかわらずだ。

慌てて護衛の騎士や魔導師らしき人達が追うが、その前に魔将が2人、ジュリーナに襲いかかる!


「死ね……」


「この牝豚……」


が、その魔将はスゥーと消えてしまった、そしてジュリーナの前にパタパタとベビードラゴンがやって来て話しかけてくる。


「まったく!人がお話し中になんなんですか、プンプンですよ!」


どうやら目の前のベビードラゴンが何かをして排除したようだ、だが周りに居た騎士や魔導師達に目の前に居たジュリーナにも、今回は何が起きたのか分からなかった。


「それで何かすくってくれとのことでしたが、何ですか?金魚ですか?スーパーボウルですか?亀は母様にダメと言われてるので残念ながらすくえません!」


そしてジュリーナの前にやって来たベビードラゴンは訳の分からない事を言っている、だがそれにジュリーナが反応してしまう。


「金魚すくいじゃありません!この世界を救って「正体見たり、転生者ですね!」え!?」


「私の目は誤魔化せません、あなたは転生者ですね!?」


ドライトはビシッとジュリーナを指差して、叫ぶ様に宣言をする!


「え、えっと、そうですけど……何か問題があるのですか?」


「いえ、問題ありません、私が言ってみたかっただけです。

それでこの世界を救って欲しいとの事ですが、いったい何から救って欲しいのですか?」


ドライトはただ単に言いたかっただけのようだ、そして問題ないと言ってジュリーナの近くに来るとそう聞いてくる。


「あ、あそこです、あそこに居る魔王が邪神の王を呼び出して、世界を滅ぼそうとしているのです!

あなたもこの世界で生きる1つの生命として、共に戦ってください!」


ジュリーナにそう言われたドライトは、チラリと魔王を見てつまらなそうに言う。


「あれが魔王ですか?ずいぶんとショボイ魔王ですね……正直めんどくさいです。

あ、邪神の王って言うのは少し興味があります、もう呼ばれているのですか?」


目の前のベビードラゴン、ドライトの言葉にジュリーナは協力してくれないのかと悲しくなりながら、空を覆う邪神の王を指差して示す。




するとベビードラゴンは驚き叫ぶのだった!


「な、あれは……あれは何事ですか!?」


こうして、ツィオーラで最終決戦が始まるのだった!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る