召喚されてしまう物語
ドライトさん、召喚されてしまう。
ここはユノガンドに有るドライト邸の食堂の前、食堂のドアが開くと赤毛の少女が中から出てくる。
「あー疲れた、あとは風呂にユックリと漬かって寝るだけか!」
食堂から出てきたのはカーネリアだった、続いて勝ち気そうな少女、マリルルナが出てきて回りに声をかける。
「今日はなんか充実した訓練ができたよね?」
そしてマリルルナの声に反応するようにゾロゾロと食堂から人々が出てくる。
出てきたのはシリカ達に、エルナルナ達だった。
シリカ達とエルナルナ達は口々に今日の訓練の話をしながら、休憩場所になっている大広間に向かう。
次に食堂からステラとルチルを連れたセレナとディアンが出てきて大広間に向かうが、セレナは立ち止まると食堂の方を向き声をかける。
「ドライト、早くいらっしゃいな?」
セレナの声に食堂からドライトが出てくる、ドライトはエプロンを身につけたまま歩いて出てきた。
そしてしきりに回りを気にした後に、首をかしげてまた歩き始める。
そんなドライトを見ながらセレナは困ったように言う。
「ドライト、あなた本当にどうしたの?今日の訓練も浮わついていて身が入ってなかったでしょ?」
するとすぐ前を歩いていたチエナルナが振り向いて話しかけてくる。
「ドライトさん、昨日も上の空だったでしょう?昨日の夜の実験を始めた当たりから変だけど、何かあった?」
チエナルナの声が聞こえたのか、他の面々も立ち止まりドライトに声をかける。
「そう言えばダーリン、私にも良いのもらってたよね?」
「……殴ったリア姉のが……ダメージ大きかった」
「それは言うなよ!」
アンジュラの突っ込みにカーネリアが言い返す、だがドライトはそれも気にせずにいきなり後ろを振り返り、何かを探すそぶりをみせてまた首をかしげながら皆の方に向き直る。
さすがに気になったディアンがドライトに近づき問う。
「ドライト、皆も心配しているのだぞ?何か気になることが有るのならちゃんと言いなさい」
そう言われたドライトは再度後ろを振り返り、また首をかしげながら話し出す。
「父様、昨日の夜から誰かに呼ばれている気がするのです……それに引っ張られてるような気もしているのですが、それらを感じる方向を見ると誰もいないですし、引っ張られる感覚も無くなるのです!」
ドライトはそう言いながら皆に近づこうと再度歩き始める、しかし!
「!? な、何事ですか!?」
「おお!ムーンウォーク!」
「マイケル・ジャクソンだ!」
ドライトは前に歩いているのに、マイケル・ジャクソンのムーンウォークのように後ろに下がる。
それを見たカーネリアとチエナルナはヤンヤヤンヤと喝采を上げた。
だが肝心のドライトは困惑の表情を浮かべると腹這いになり、手足の爪を床にたててその場で踏ん張る……だが!
[キィーーー!]
嫌な音ともに爪痕を床に残してドライトは引きずられ、皆から引き離される。
「ド、ドライト!?」
「か、母様!何かの力に引っ張られます、あがらえません!ああ!?」
さすがに不審に思ったセレナが叫ぶようにドライトを呼ぶが、ドライトはそう言いと同時に光の粒子に包まれて消えていったのだった。
そこは平原だった、本来は平和その物の平原で、近くには村が有り今この場所にも畑があり、畑を耕す農夫やその近くで遊ぶ子供の姿も有る場所だった。
だが今は―――
「偉大なる神よ!今こそこの地に降臨し、全てのものに平等なる死を!」
神官服を着た、いかにも邪悪な風貌の魔族がイビツな杖を振るい何かしら呪文を唱える。
「みんな!なんとしても儀式を止めるんだ!」
「邪神の王なんか呼ばせないわ!ツィオーラの平和は守ってみせる!」
そこに日本人の少年と少女が光輝く鎧と剣を持って走り込むが、そこに魔族の軍勢が割り込んでくる。
「勇者と仲間を魔王様に近づけるな!殺れ!」
「やらせるな!全軍進め、勇者様達を援護しろ!」
魔族の将の叫びに、揃いの鎧を身につけた騎士達や冒険者達が勇者の援護にはいる。
「ヒデト、マユ、突出しすぎです!偉大なる神々よ、勇者様達と戦士達に祝福を……!」
「ジュリーナ姫様の聖魔法だ……おお、神々の祝福が!」
モロに姫で聖女な女の子が祈りを捧げると、空を覆っていた黒雲が晴れて光が勇者達や騎士達に降り注ぐ。
「おのれちょこざいな!邪神よ、破滅の力を我等に!」
魔族の将の一人がそう叫ぶと、魔族を守るように再度黒い雲が空を覆い始める。
そう、平和な平原だったここは、邪神を呼び出し世界に死と破壊を振り撒こうとする魔族と、神々と共にこの世界を守るために戦う召喚勇者と光の軍勢による、最後の決戦の場と化していたのだ!
「オオオオオ!偉大なる神よ今こそ、今こそ降臨し、我等魔族に栄光を!」
最初は斬り込んだ勇者の少年と、剣聖の少女が魔王のそばまで近づけたが、魔族の精鋭たる親衛隊と将軍達に阻まれてしまっていた。
騎士達や冒険者達がそこに援軍として参戦するが、魔族もぞくぞくと援軍がやって来て今は一進一退の攻防になっていた。
ジュリーナ姫と呼ばれた女の子の祈りで一度は有利になりかけたが、呪文を唱え続ける魔王のそばに居た魔族の魔導師らしき者が呪文を唱えると黒雲が再度現れて戦いは拮抗してしまう。
そして、一心に呪文を唱えていた魔王が叫ぶと、吹き荒れていた風がピタリと止み空が一気に黒雲に覆われる。
風が突然止んだので人間だけでなくエルフやドワーフに獣人達だけでなく、魔族も驚き戦いを止めて回りを見回す、すると誰かが空を指差して悲鳴のような叫び声を上げた。
「あ、あれを見ろ!」
それに釣られて皆が空を見上げる、そこには無数の目と気味の悪い触手が現れていた。
そしてその無数の目の1つと、1人の男が目が合う、すると―――
「うあけぺみんにょひあー!」
「お、おいどうし、あぶね!
何を……おい止めろ!」
意味の分からない叫び、奇声を発して持っていた剣を振り回す。
近くに居た兵士が慌てて飛び退くと、その男は剣を逆手に持って自らの心臓に剣を突き刺して兵士が止める間もなく絶命してしまった。
「いけない!皆、あの目を見ちゃダメ、狂ってしまうわ!」
ジュリーナ姫がそう言うが、空からは触手が伸びてきて騎士や冒険者達を絡めとる。
そのためにどうしても空に注意を向けなくてはならず、次々と発狂する者達が出る。
だが、発狂したり触手に絡めとられる者は、魔族にも居た。
そのために戦場は大混乱になり人もエルフもドワーフも獣人も、魔族達でさえも逃げ惑っていた。
「く、くっそう、なんだあれは!?」
「あ、あれが邪神の王なの……あんなのどうやって倒せば良いのよ……!」
皆が逃げ惑うなかで勇者のヒデトと剣聖のマユ、その回りに居る回りとは雰囲気の違う騎士や冒険者達が、目に魅入られて狂うことなく悔しそうにたたずんでいた。
「ヒデト、マユ!」
「ジュリーナ姫!」
「ちょ、ちょっとジュリーナ、あんなの聞いてないわよ!?」
ジュリーナ姫達がヒデト達の元にやって来る、そしてジュリーナ姫のまわりに居た聖職者や魔法使いが勇者達や自分達の回りに結界を張る。
そして何時の間にかまた強くなった風に、明るいグリーンの髪を押さえながらジュリーナは真剣な表情で回りを見回して言う。
「マユ、邪神の王はまだ完全には呼び出されてはいないわ?あれを見て?」
ジュリーナの指差した方を見ると、魔王がいまだに呪文を唱え続けていた。
そしてその回りには魔将や空から伸びてきた触手が、魔王を守るように蠢いている。
「それに神々も邪神達を倒すために降臨なされようとしているわ……でも、魔王の呪文と邪神の王がそれを妨害しているの、だからヒデト、マユ……なんとか、なんとかして、魔王を倒して!
そうすれば邪神の王は私がなんとかしてこの世界から追い出すから!」
ジュリーナ姫は泣きながら頭を下げる、そんなジュリーナの頭に、チョップが降ってきた!
「こらジュリーナ!もう泣かないって、私と約束したでしょ?」
「ああそうだぞ?それに俺達も約束しただろ?ツィオーラの……ジュリーナの笑顔を守ってやるって!」
ジュリーナにチョップをしたマユはジュリーナを優しく抱き締める、ヒデトは少し乱暴に頭をなでて笑いかける。
抱き締められ頭をなでられたジュリーナは……
「ヒデト兄さん、マユお姉ちゃん……」
そうつぶやき、泣きながら無理に笑った。
「そうそう!ジュリーナは笑ってた方が可愛いんだから、笑いなさい!」
マユはそう言うと、力強くジュリーナを抱き締める。
そしてジュリーナが「く、苦しいよ!」っと言ってもがいている間に、
「……皆、すまないが付き合ってくれるか?」
っと、ヒデトが回りに問いかける、回りに居た騎士や冒険者達はそれに剣をかがげたり、親指を立てたり、笑いかけて同意の意思を示す。
それを見てヒデトはマユの方を見てお互いにうなずくと、ジュリーナに向かい。
「じゃあ、行ってくる!」
「サクッと、倒して戻ってきてあげるわ!」
そう言って回りの仲間達と共に走り出す、ジュリーナはそれを泣きながら、笑いながら見送るのだった。
「……姫、よろしいのですか?」
「じい、何がですか?」
「お別れを言わなくてもです……邪神の王を押し戻す秘法は……我等の命が対価になりましょう?」
「……本来は関係のない兄さんとお姉ちゃんを巻き込んだのは私です、責任は取ってみせます!
……ただ、もしこの中で誰かが生き残ったら、2人を元の世界に戻してあげて下さい、それと……私は最後まで笑っていたと伝えて下さいね?」
ジュリーナはそう言って泣くのを止める、そして空を覆う邪神の王をにらみつけるのだった!
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