23日目・諍い(いさかい)
「校長、何にしろこれから生徒の指揮は俺とデーヴィンとで取ります。
校長は安心して見守ってて下さい!」
「賢者の学園で生徒長を務めているデーヴィンです。
ヒロ先生、クリスティーナ学園長は居ないんですか?なら、これからは俺が指示を出しますよ。
ん?ヒロ先生達がいる?お前等なに言ってるんだ、ヒロ先生達はただの教師だぞ?そんなのにまともな指示が出せるとでも思っているのか?」
デーヴィンの言葉にかなりの生徒達から非難の声が出るが、岡田もデーヴィンも涼しい顔で無視をする。
「ところで朝日達は居ないのか?」
「ネイサンも居ないようだな、仲間達を見捨てて逃げたか?」
岡田とデーヴィンは周りを見回しながら門に向かう、するとその前にドライトポリス達が立ちふさがり、威嚇し始めた。
「許可の無い者は入れませんよ!?」
「許可証とヒヨコ鑑定士の免許を見せるのです!」
ドライトポリスは通過に必要な物と必要無い物を請求する。
岡田達はそんなドライトポリスを睨み付けるが、横から校長が岡田達に助け船を出す。
「その子達もうちの生徒達です、入れてあげてください!」
「……なにか嫌な予感がするんですが、校長先生がそう言うならしかたありませんね」
ドライトポリスはそう言うとシブシブと道を開けて通行を許すのだった。
「ふむ、なかなかの施設が揃ってますね?」
「向こうの城塞部分が生徒会の使える施設ですか?」
岡田とデーヴィンはそれぞれの取り巻きを連れて拠点内を点検していた。
そしてデーヴィンが指差したのは、ロッテンドライヤーが増築した城塞の部分だった。
「そ、そこはロッテンドライヤー女史の住居だ!
色々秘密も有るから近づくなと言われている、近づくなよ!?」
ヒロがそう言うが岡田は完全に無視をして、デーヴィンは鼻で笑って城に向かう、そして周りが止めるのを無視をして扉を開け放った。
「……ハリボテ?」
「ん?向こうに平屋の建物が有るな?」
城はハリボテだった、そしてデーヴィンが指差した先には平屋の建物が有り、そこからは何かの機械が動く音が聞こえる。
周りも最初は止めていたが、興味に勝てずに岡田達と共に覗きこむ。
そしてそこで見たものは!
「ド、ドライトゾンビに感染者!?」
「変な容器に入れられてるな?」
「何かを調べているようだが……」
そこに有ったのは何かの液体で満たされた、ポットの中で眠っているようなドライトゾンビに感染者達だった。
その光景に岡田達だけではなく、ヒロ達教師やその他の生徒達も驚き固まるのだった!
そして全員が呆然とその光景を見ていると、部屋の奥から何者かの声がする。
「どなたざますか!淑女の部屋に忍び込むとは、死を覚悟しての事ざますね!?」
「ヤバい!ロッテンドライヤー女史だ、皆逃げるぞ!?」
ヒロがそう言って振り向くと、ロッテンドライヤー女史が女豹のポーズで立ちふさがっていた。
「け、研究資料ですか?」
「そうざます、ドライトゾンビや感染者達を治す方法を研究しているのざます。
危険な薬品も有るざますので、近づくのも許していなかったのざますが……」
そう言って困ったように顔を歪めるロッテンドライヤー、そのロッテンドライヤーに1人の生徒がおずおずと質問をする。
「あ、あの?このビンの薬で治るんじゃあ?」
その生徒が差し出すように見せたのは、リポビタンDにしか見えない例の薬だった。
それを見たロッテンドライヤーがその生徒に向き直り答える。
「その薬は治るだけざます。
私が開発中の薬は、治ると同時に禿げるざますのよ?」
「「「おおー……お?」」」
ロッテンドライヤーが研究していたのは、恐ろしく下らない薬だった。
結局、校長やヒロ達、教師達が頼み倒して薬の研究は止めさせて、研究のために作った治療薬は、そのまま倉庫で保管することになったのだった。
「それでそちらの方々はどなた様ざますか?」
ロッテンドライヤーは不審者を見る目で岡田達を見る。
するとその視線が不快だったのか、岡田達はロッテンドライヤーを睨み付けながら校長に質問をする。
「なんですか、この珍妙な生き物は?
それにお前、俺達はこの拠点の新たなリーダーだ」
珍妙な生き物と言われてロッテンドライヤーは眉をしかめ、新たなリーダーと聞いて驚きながら聞く。
「指導者には校長が、生徒達のリーダーには灰谷様達が居たはずざますが……?」
「灰谷?あんな奴にリーダーが務まるわけないだろ?何を言ってるんだか……」
岡田の言葉に、ロッテンドライヤーはさらに顔をしかめて何かを言おうとしたが、慌てて校長が提案をする。
「じょ、女史!最近はお食事もろくに取ってなかったのでは?
もうすぐお昼ですし、一緒にどうでしょうか!?」
校長に誘われてロッテンドライヤーは何かを言いたげだったが、「……そうざますね、行くざますわ」っと言って校長と歩いて出ていくのだった。
「……問題だな?」
「……ああ、あれは問題だ」
そして岡田とデーヴィンはロッテンドライヤー女史を、睨むように見つめながら後を着いていくのだった。
「さあさあ、お食事にしましょう!」
校長の掛け声で昼食が始まる。
「おお、今日はカレーですね!」
「サラサラよりもこってりの方が私は好みです!」
「これはチキンカレーですよ!」
すると真っ先にドライトポリスの面々がわらわらとやって来て、カレーを係りから受け取っていく。
その光景を見た岡田が慌てて待ったをかける。
「待て待て待て!お前等も食べるのか!?」
「へ?何言ってるんですか、食べるに決まってるじゃないですか?」
「警備も体力を使いますからね?
たくさん食べて体力をつけないとです!」
岡田の言葉に何言ってるんだコイツ?といった視線を向けて、再度カレーに向き直るドライトポリス達。
次の瞬間だった!
「食うなと言ってるんだ!」
[ガシャーン!]
デーヴィンが近くに居たドライトポリスのカレーを、手で振り払ったのだ!
そしてカレーは弧を描いて落ちる、ロッテンドライヤーのドレスの上に……
「……これは、どういうことざますか?」
「じょ、女史!違うのです、彼等は決してわざと「黙るざます!」!?」
「私はそこの者達に聞いてるざますわ……それで、なんで私のドレスを汚したざますか?」
ロッテンドライヤーは尋常ではない殺気を放ち、辺りを威嚇する。
だが空気の読めない岡田とデーヴィンは言い放つ。
「当たり前だろうが!食料の備蓄は少ないと聞いているんだ、お前等なんぞに食わせる分なんか有ると思っているのか!?」
「それに聞いてるぞ!?毎日毎日、門のところで喋っているか、散歩がてらにフラフラ歩いているだけだとな!」
岡田とデーヴィンの言葉にロッテンドライヤーだけでなく、ドライトポリス達も怒気を強くする。
「……皆さんもそう言う風に考えているんですか?」
そして1体のドライトポリスがそうたずねると、岡田は周りの生徒達を見回して言う。
「皆もそう思ってあるだろう?
最近は天使族や竜人族も全然見ないらしいじゃないか?おおかた、俺達の拠点の防御が固くて、手も足も出ないんだろう。
なのにこいつ等を置いておくのか?」
「……そうだよな」
「最近はあいつ等を見ないし……」
「秀野の班が、外で撃退したって言ってたし、実はあいつ等は大した事ないんじゃ……?」
岡田の言葉に、一部の生徒達から賛同の言葉が出る。
その言葉を聞いたロッテンドライヤーは目を細めると、突然に立上がり宣言した。
「そこまで言うなら私は出て行くざますわ!」
「「「な!?」」」
「私達の警備も要らないようですね?
女史、私達も出ていきますよ!」
女史とドライトポリスの言葉に、教師達や一部の生徒達は言葉をなくしてしまう。
だが岡田とデーヴィン、そしてその取り巻きからは賛同の言葉があがる。
「ふん!役立たず共が減れば食い扶持も増える。
灰谷や朝日達はそんな事も分からずにこいつ等を飼っていた、本当に使えない奴等だな!」
「まったくだ!これからは俺達が確りと管理してやるからな!?」
「おい、さっさと出ていけ!」
「目障りだぞ!」
こうして、人間達は最強の防衛戦力を失ったのだった。
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