22日目・拠点への帰還
「おー、痛ててて……酷い目にあったわ」
「やっぱりあの子も強かったのね……」
「刀の一振りで、吹っ飛ばされるとは思わなかったぜ……」
俺と円に弘志がそう言いながら、尻を抱えて倒れているレイナ達と、それを介抱しているシリカ達の元に皆で歩いていく。
「あら、あなた達、大丈夫の様ね?
レイナさんが手加減に失敗してたから心配だったけど、怪我は無いようね?」
俺達が近寄って来たのを見て、サルファがそう言ってくる。
その言葉に俺達は慌ててお互いに怪我がないか確認すると、怪我は無かったようで、顔を見合わせて安堵の息を吐く。
「バカね、ドライトがちゃんとカバーしてたから、怪我の一つも無いのよ?
私も慌ててカバーしようとしたけど、ドライトがとっくに結界を張っててくれてたわ」
シリカはそう言うと、介抱して回復したレイナを叱り始める。
「レイナ、あなた手加減に失敗したでしょ?
ドライトがカバーしなかったら、星司さん達は真っ二つになってたわよ?
もっと訓練をしなさいな!」
シリカに叱られてレイナは涙目だ、だが俺達はシリカの言葉にレイナを見てからドライトを見る。
レイナは「申し訳ありません!」っと、シリカに謝っていて。
ドライトは勝利の踊りを踊っていた、踊っているのは良いのだが踊りが何故かパラパラだった。
なんにしろ、ドライトとの模擬戦も終え、俺達はショッピングセンターで1泊し、朝には拠点へ帰るために店の出入り口に集合していた。
「じゃあ、用事も済んだし俺達は帰るか!」
「昨日のピザ、物凄く美味しかったです!」
俺と梨花がそう言って頭を下げると、朝日達やネイサン達もペコリと頭を下げる。
昨日の夜は、耐熱レンガをみつけたドライトがピザ窯を造り、熱々のピザをふるまってくれたのだ。
……1日でピザ窯をどうやって造ったんだ、この駄龍は?なんて考えながら食べたんだけど、味は絶品だったので円も美味しかったと礼を言ったのだろう。
朝食も食べていかないかと聞かれたが、拠点の様子が心配だった俺達は早々においとまをする事にして、玄関に集まって帰り支度をしていたのだ。
「それじゃあ、世話にな……ってないな?何にしろ帰るわ?」
俺がそう言うと、ドライトは手をフリフリ「また会いましょう!」っと、言ってきた。
俺達やシリカ達は引き留めると思っていたので、意外に思ったがそれならそれで引き留められる前に帰ろうと、急いで拠点の学園寮に向かったのだった。
そして次の日、俺達はショッピングセンターで朝飯を食っていた。
「さあさあ、どんどん食べてくださいね?」
「……ちくしょう、米がうめえな!」
「鯵の干物に味噌汁、目玉焼きも絶妙な焼き加減だわ……」
先ほどショッピングセンターに戻ってきたばかりなのだが、ドライトはご飯をしっかりと俺達の分も用意していた。
つまり俺達が帰ってくると確信していたという事だ。
そして拠点の学園寮に帰った俺達が、何故にまたショッピングセンターに戻ってきているのかというと……
「お!ようやく門が見えてきた!」
「2、3日離れてただけなのに、なんか久しぶりな気がするな!」
俺の言葉に弘志が余計なことを言っているが、それは無視して俺達は門に向かう。
海岸地区は問題なかったが、その他の地区はドライトゾンビや感染者達がうろついていたために、拠点に帰ってきた時には辺りは夕暮れ時で薄暗くなっていた。
「何にしろ早く行きましょうよ?……あれ?もう門が閉まってる?」
エルケがそう言って駆け出そうとして、門が閉まっているのに気がつき立ち止まる。
拠点の門は探索に出ている者達のために、夜の8時、20時まで開いているはずなのだ。
不審に思った俺達は、門の前に行かずに少し離れた所で様子をうかがう事にして、門や拠点の様子を探る。
「ねぇ?ドライトポリスも居ないんじゃない?」
「ああ、門の中に居るのか?」
「でも、中も静かな気が……」
円、朝日がドライトポリスが居ないと不思議がっていると、香織姉が門の中もいやに静かだという。
「とにかく中に入ろうぜ?暗くなっちまうぜ?」
「そうだよね、別の場所に行くにしても、完全に暗くなる前の方が良いし、早く中を確認しよ?」
弘志と百合ちゃんの言うことも、もっともなので、俺達は門の前まで警戒しながら進んでいく。
「開いてる……」
エルケが素早く門に取りつき確認すると、閂や鍵はかかっておらず、門を押すとスゥーっと開いたのだった。
「誰も居ない……のか?」
「声も聞こえてこないわね?」
「門の警備も居ないなんて、やっぱり変だぞ?」
「ドライトポリスはともかく、ロッテンドライヤー女史も居ないのかしら?」
俺達は周囲を警戒しながら拠点の中に入る、だがそこには人の気配はなく、門を守るドライトポリスの姿もなかった。
「嫌な予感がするな……おい、一回外に出よう……!?」
俺が仲間達に声をかけると同時に、建物の影から数人の人達が俺達に走りよってきた。
敵かと思い俺達は一斉に武器を構えるが、俺達の元に走ってきたのはヒロさん達だった。
「お前等無事だったか!
こっちに来い、建物にも近づくなよ!?」
「ヒロさん、何があったんですか?
あんなに賑わっていたのに、校長や他の皆は?」
「それも説明するから、俺達についてきてくれ!」
ヒロさんはそう言うと、辺りを警戒しながらドライトポリスが詰め所代わりに使っていたプレハブ小屋に走り込んだ。
俺達もそれに続きプレハブ小屋に飛び込むと、中では校長と10数人の人達が身を寄せあっていた。
「朝日君、灰谷君!」
「校長!一体何があったんですか?
拠点に居た皆は何処に!?」
「ドライトポリス達も居ないんですか?天使族か竜人族が攻めてきたんですか!?」
「す、すまない……すべては私の責任だ……まさかこんな事になるとは……」
項垂れた校長とそれを心配そうに見つめるヒロさんが、何故こんな事になったのかを説明し始める、それは俺達を送り出した後、直ぐに起きたことが原因だった。
「行きましたね、彼らは大丈夫でしょうか?」
「校長、うちのネイサン達は勿論、星司達も手練れです。
ちゃんと目的を達成して、帰ってきてくれますよ!」
ヒロがそう言った瞬間だった、門の脇で騒ぎが起こる。
「何者ですか!そこで止まりなさい!」
「名前と所属、好きなホールケーキを言いなさい!」
「イチゴのホールケーキは鉄板なので不可です!」
ドライトポリスの誰何の声に、ヒロ達がそちらを向く、するとそこには20人程の男達が立っていた。
その中からリーダーらしき人物が前に出てくる、そしてそれを見た校長が驚き叫ぶ!
「岡田君!無事だったんですね!?」
「校長、久しぶりですね?
ここに校長や皆が居ると聞いて、仲間と共にやって来ました。
皆!リーダーが不在で大変だったろう!?これからは俺達が指揮を取るから心配するな!」
そしてそこまで聞いて朝日が校長とヒロさんの話を止める。
桐澤さんは岡田が居ると聞いて、真っ青を通り越して真っ白になっている。
「待て待て待て、待ってくださいよ!
岡田のアホが来たんですか!?そして拠点に入れたんですか!?
それにリーダーってどういう意味ですか?校長が居るじゃないですか!」
「い、いやそれが、生徒の自主性のために、生徒達の指揮は生徒会長の自分が取ると言って……それに彼も私の生徒ですから、安全な拠点に入れない訳にはいきません!」
校長の話を聞いて朝日や弘志は嫌な顔をしているが、女子達は生徒の身を案じる校長の思いに仕方がない、っといった顔をしている。
そんな中でネイサンがヒロさんに質問をする。
「ヒロ先生、うちの学園の連中も従ったんですか?
その岡田とか言うのに、従うとは思えないんですが?」
ネイサンの言葉に、ヒロさんは嫌そうな顔をして答える。
「その岡田のグループにな、デーヴィンも居たんだよ……」
「よし!脱出だ、この拠点は捨てる!」
ネイサンはデーヴィンと言う名前を聞いた途端に、ケイティを庇うように、守るようにしながらプレハブを出て行こうとする、慌てて俺が止めて何事か聞くと―――
「ケイティに言い寄る変質者か……朝日、どこも一緒だな!」
「嫌な言い方するな……それでそのデーヴィンってのが居たのが、何か問題なのか?」
弘志は朝日と桐澤さんを見回して言う、朝日は弘志に視線で止めろと言いながらネイサンに質問をする。
「……能力は問題ない、生まれもある都市の都市長の子だから問題ないんだが……人格がな?」
「ぶっちゃけクズよ!」
「父や兄達と商談に行った時に、私を見初めてプロポーズをしてきたのですが……私にはネイサンが居るので断ったんです」
ネイサン、エルケ、ケイティと事情を説明してくれる。
本人から言われた時にしっかりと断ったのだが、父親の都市長経由で再度打診してきて、その時にケイティの父親もちゃんと断ったのだそうだ。
「なのに賢者の学園で再会した時に、「俺を追いかけてきたのか?可愛いところもあるな!」何て言ってさ、つきまとうようになったのよね?
それでネイサンが何度も自分の婚約者に言い寄るなって、言ってるんだけど、「宿屋の伜ごときが生意気だ!」って言って聞く耳を持たないんだよね……」
エルケが心底嫌そうな顔をして言う、続けてケイティがネイサンの横で守らるように立ちながら困った顔で言う。
「ネイサンの実家は確かに宿屋です。
しかしただの宿屋ではなく、王侯貴族や都市長などが使う由緒正しい高級ホテルですし、学園都市の議員や都市長を輩出した家柄です。
そしてなんと言っても、ドライト様の守護が与えられている稀有な宿なのです!」
「へ~……なのになんでそいつは自信満々で、ケイティを口説いてるんだ?
そいつの親が何か吹き込んでるのか?」
ドライトの関わりのある宿と聞いて、興味が急速に薄れた俺はそう言って先を促す。
「……さあ?」
「……向こうの親はワザワザ学園都市まで来て謝ってくれたんだがなぁ?」
「ただのアホなのよ!」
最後にエルケがそう叫ぶと、ヒロさんや近くに居た学園の面々がお互いに顔を見回して、頷きあうのだった。
何にしろ俺達は、岡田とデーヴィンが来たことで何が起きたのか、ある程度予測はできるが続きを聞くことにした。
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