16日目・VSセイネ
「あ、あれ?何処に行ったの?」
「い、今まで目の前に居たよね!?」
「いきなり姿が消えたぞ!?」
「皆、気を付けて!気配を完全に絶つ技、絶影よ!
必ず近くに居るはすだわ!」
セイネの後を追っていた円、百合、弘志にエルケ達4人は混乱していた。
先程まで10メートルほど前を歩いていたセイネの姿が忽然と消えたからだった。
目を離したわけでも、セイネが何処かに走り去ったわけではない、いきなりスゥーっと消えたのだ。
驚きのあまりに全員が固まったが、すぐに驚きの声を上げて動き出す。
エルケは何かを思い出したのか、辺りを警戒するように皆に伝えて周辺に隙なく視線を送る、その瞬間だった。
「お?絶影を知ってるの?
まぁ、知ってるだけじゃあ意味ないんだけどね?」
エルケの真後ろから声がしたのだ!
「ほれほれ、こっちだって!」
「おりゃ、あ!?」
「はい、ざんねーん!」
「ま、また消えたぞ!?」
現在円達は、セイネにもてあそばれていた。
最初にエルケの真後ろに現れた時も。
「これが野郎共をまどわす狐の耳と尻尾か!?
しかもこの胸はなんだ!?育ちに育ちやがって!」
そう叫んで地団太を踏んでいただけだった。
エルケは慌てて振り向きざまにショートソードふるったが、その時には影も形も消えていた。
その後も今のようにおちょくっては攻撃をかわして、また消えるの繰り返しだった。
「ハァハァ……こ、これじゃあいい様に遊ばれてるだけじゃない!」
「く、くっそう!何処に居るのかどころか、どうやって移動してるかも分からねえ!?」
特に百合と弘志はいい様に振り回されて、百合は息も絶え絶えになっていた。
そしてそんな百合を狙った様に―――
「百合ちゃん、後ろ!」
セイネが百合の真後ろに現れた!
「へ?キャアァァァ……あ?」
「強く、イキロ!」
百合が円の声に慌てて振り向くと目の前に満面の笑みをたたえたセイネが居て、百合の胸やらお尻に視線を送り、そして百合の肩に片手を置くともう片手でグッジョブ!っとばかりに親指を立ててそう百合に言う。
「あ、あの猫耳女!何処に行きやがった!?ぶっ殺す!」
「ゆ、百合!俺は好きだから!その慎ましい体も大好きだから!」
「弘志くん、嬉しいけど……慎ましいとか言うな!?」
「百合ちゃん、弘志、落ち着いてってば!
あの猫女の狙いは私達を慌てさせることよ!?」
百合と弘志が暴走仕掛けたが、円の一声で走り出すのをとどまる。
「円、なにか分かったの?」
「その絶影とか言う技は本当に姿が消えてる訳じゃないんでしょ?
なら動けば痕跡が何処かに出るはずよ!?」
円の言葉に全員がハッとして、静まり返って互いに背を向け周囲の様子をうかがう、するとセイネの声がまた聞こえる。
「お~、なかなか良い判断だけど、私ってばシーフ系だからさ?痕跡を残さずに動くのも得意なんだよね?」
全員が背を向けた方、中心から―――
「わあぁぁぁ!?」
「な、なんで!?」
「まぁ、経験の差よね?
じゃあそろそろ、本格的にいかせてもらうよ?」
セイネはそう言うと腰に着けてあった鞘から、大振りのナイフを抜く、そして先程までニヤニヤと浮かべていた笑みを消すと、姿を消すのだった。
「ここからが本番ってことか……」
「百合、気を引き締めろ?」
「弘志くんもね?」
「こ、これがSランクのシーフの本気……
殺気どころか、気配すら本当につかめないわ……」
先程と違い、今度は完全に気配すらつかめなくなった。
セイネが本気になる前は、所々で気配がしたり動いた後が残っていたが、本気になってからはエルケでも完全に動きすら読めなくなってしまった。
いや、実を言うと物音がしたり気配がするのだが、その全てがフェイクやフェイントで、余計にエルケはもちろん円達も混乱して恐怖しか感じなくなっていっていたのだ。
「ヒッ!?ど、何処に居るのよ!?」
「ううう……どうすれば良いの……!」
「ゆ、百合、俺の後ろに!後ろか!?」
「な、何これ!?本当にこんな動きを人が出来るの!?
……え!?ま、まずい皆、散って!」
最早、円達は完全にセイネに翻弄されていた。
セイネは何時でも円達の誰かを討ち取れたが、全員を一網打尽にするつもりで円達は知らず知らずに1ヶ所に集められていのだ。
そしてそれに気がついたエルケが散るように言った瞬間だった!
「セイ!
……ちょっと実力差が大きすぎますね?」
「うーん、実力差と言うよりも、円さん達はセイネさんに誘導されて引っ掛かっちゃったんですよ?」
「! レイナちゃんにドライト様!?」
「え!?な、なんで私達を助けるのよ!?」
「ど、どうなってるんだよ!?」
円達に向かって投網が投げられて全員捕まるかと思った瞬間に、レイナがドライトを頭に乗せて何処からともなく現れて、投網を切り裂いたのだ!
助けられた円達はもちろん、セイネも驚き姿を現す。
そんな円達とセイネを気にする事もなく、レイナは自分の頭にしがみつくドライトに質問する。
「ドライト様、誘導されたと言うのはここに集められたと言うのとは、違うことなのですか?」
「違いますよ?レイナも気がつかなかったのですか?
セイネは戦闘が始まる前、それこそ円さん達を指名した時からこうなる風に誘導し、予想したのですよ?」
「へぇ……なんでまた?」
レイナがそう言うと、ドライトは呆れたように言う。
「レイナ、あなたはキャロとリティアが居ない時に指揮をとるんじゃないんですか?なのに分からないなんて……問題ですよ?」
「す、すみません!」
レイナはドライトに叱られて、平謝りになる。
頭にしがみついていたドライトはそのせいで振り払われそうになり、必死にしがみついている。
「ちょ、ちょっと!どさくさ紛れに振り払おうとしないで下さいよ!
……まったく、油断も隙もないですね?
それでなんで円さん達を指名したのが誘導なのかでしたね?
あの面子を見てレイナは何かに気がつきませんか?PTとしてです!」
「……?…………あ!魔法使い系の人が居ない!」
「そう言うことです!
円さんと弘志さんには訓練した時に、気配の薄い相手と戦う時は相手の魔力やその残痕を追う様に教えました。
エルケも学園で教えられたはずですよ?
でも普通は魔法使いの魔法を見極めたり、使用のタイミングを知るために使いますからね?
それをセイネは逆に利用して、私はシーフですよ?魔法は使いませんよーっと、思わせて円さん達に魔力視なんかを使わせなかったんですよ」
「はぁ~なるほど、それで選んだ面子が魔法があまり得意じゃないのばかりなんですね!」
「そう言うことです!」
ドライトの解説とレイナの言葉を聞いた円達は、ハッとして魔力視やその他のスキルを使いセイネを探し始める。
「そう言うことだったのね!
でも、種明かしされれば対策は出来るわ!」
「魔力の残痕……開けチャクラ!
……見えた!」
「魔力視とかも併用したら、あの猫耳娘の動きも手に取るように分かるわ!」
「戦いはこれからよ!?」
円、弘志、百合、エルケがそう言って再度、戦闘体制に入ろうとすると、ドライトが話しかけてきた。
「皆さんはもう、チェックメイトですよ?」
「「「……え?」」」
そして円達の耳に奇妙な音が聞こえてくる。
[ブウウゥゥゥンン!]
「え?な、何の音!キャアァァァ!?」
「ひ、弘志くん!逃げ、ちょ、ちょっと!」
「百合!?な、なんだこれ、ボーラ!?」
「な!?む、向こうからも……あだ!?な、なんであっちこっちから!?」
円、百合、弘志、そして最後にエルケがボーラ、鉄やゴム、木などの球を紐で連結した狩猟道具が、アチラコチラから飛んできて捕まってしまう。
今回飛んできたのは殺傷能力がない、ゴム製の物だった。
なんにしろ、ボーラで絡め捕らえられた円達を見て、ドライトが呆れたように見回して言う。
「まだ戦闘中だったのに、私達の話に注目してて、セイネを忘れたのが敗因ですね?」
ドライトがそう言うと、続けてセイネがやって来る。
ナイフはしまい表情はニコヤカだ、そして円達の側まで来るとエルケを踏むつけて言い放つ。
「戦闘中に敵から視線を外すなんて、問題外だよね~?
何にしろ負けを認めて、情けなく降伏してよね?」
「「「く、屈辱(だ!)だわ!」」」
こうして円達VSセイネは、セイネの圧勝で終わったのだった。
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