17日目・VSアレナム


「うーん?この辺りで良いかな?

ってかこの感じ、あのバカ絶影を使ってる?」


神官服の美少女、アレナムは立ち止まるとセイネ達の方を見てそう呟く。


「仲間の心配か?

あの猫耳の少女の相手は俺達の中でも武闘派の円に弘志に百合ちゃんだし、頭の回転の早いエルケも居るからな、もう終わってるかもな?」


朝日がそう言うと、アレナムは心底バカにしたように朝日を見て、ため息をつきながら言う。


「はぁ……本当にバカね?あんた等は指名されてそれぞれの相手が決まったのよ?

あのバカはしっかりと自分が戦うのに有利な相手を指名したに決まってるでしょに……

ってか、指名されてノコノコ着いてくる方がアホよね?」


「「「……!!」」」


アレナムに指摘されて朝日達ははじめて気がつき、驚愕すると共にアレナムを警戒して一歩下がる。


「やっと理解した?

セイネに着いていった4人は誘導された事に何時気がつくかしらね?

セイネの奴、今は絶影を使ってるみたいだから、遊んでやってるんじゃないの?」


「ぜ、絶影?」


「どっかで聞いた気が……?」


「ケイティ、確かシーフ系の伝説の技だよな?」


「ええ……気配や存在感を絶ち、影すらも感じられなので絶影、と呼ばれる様になったって言われているわ……桐澤さんはよく知ってたわね?」


ネイサンに問われたケイティがそう答えると、アレナムがいきなり笑い始めた。


「ブハハハハ!で、伝説の技……う、うける!アハハハハ!」


突然笑い始めたアレナムを、朝日達は呆然として見つめる、そして桐澤がハッとするとアレナムを怒鳴り付ける。


「いきなり笑いだして何だって言うんです!

ケイティさんの説明に何か間違いがあったとでも!?」


「アハハハハ……ヒィーヒィー……わ、笑えるわ!あ、ご、ごめん!

そっちの説明に間違いはないんだけどね?絶影って技の名前の元は……馬の名前なんだよ!

セイネのバカがドライト様に気配や存在感の絶ち方を教わって、出来る様になった時に、技名をつけようってなってさ?

色々考えてたら、たまたま妹様達がやってたなんとか無双ってゲームに出てきた、馬の名前なんだよね!」


「三国志の曹操……の愛馬!」


「う、馬の名前……!?」


朝日は何かを思い出したようで何かを叫び、ケイティが斥候系の者達が憧れる伝説の技の名前が、馬の名前だったと聞いて唖然としている。




「いやぁー、笑った笑った!

ああ、一応止めたんだけどさ?セイネのバカが「異世界の馬の名前だなんて、言わなきゃ分からないから大丈夫!

それに、皆にばれたらばれたでその時の顔を見たら笑えるだろうから、2度美味しい!」って自信満々で言ってさ?アンジェ様も「……流石は私のセイネ……冴えまくってる!」って認めたゃったから、絶影って決まっちゃってね?」


「そ、そんな風に決まったなんて……」


「斥候系の人には聞かせられない話だわ……」


ネイサンとケイティはアレナムの説明を聞いて、愕然としている。

アレナムは「文句はセイネのバカに言ってね?」っと言って苦笑していると朝日が声をかけてくる。


「で、あんたも自分に有利なように俺達を指名したって事か?」


「ん?ああ、それは違うわよ?

セイネは脳筋っぽい3人が相性が良さげだから選んだみたいだけど、私は残りの7人の戦力を考えたら、これが半々になるかな?って思って選んだのよ?」


「……あれ?エルケはなんで選ばれたんだ?」


ネイサンが何故にエルケが選ばれたのか分からずにそう言うと、アレナムが「あ~」っと言いながら答えてくる。


「同じ獣人で乳がでかかったから、気に食わなかったんでしょ?

まぁそんなに酷い事はしないと思うから安心しなさいよ?」


アホみたいな理由を聞いて、桐澤、ネイサン、ケイティは信じられないものを見てる目でアレナムを見るが、朝日の態度は違っていた。


「それはそれとして俺達4人を相手に、ずいぶんと余裕だな?

俺と頼子はバランスが良いし連携は完璧だ。

ネイサンは前衛だが魔法も使えるし、ケイティはただの魔法職じゃないぞ?

そんな俺達を相手にあんた1人で勝てるつもりか?」


「……アホね、負ける理由がないわ?

とりあえず叩きのめしてやるから、かかってきなさいよ?」


アレナムはそう言うと、笑みを消してメイスをしまい、籠手を両手に着けて両拳を打ち付け合う。


その姿を見た朝日達の背筋に、戦慄が走るのだった。




「な、なんだ、このプレッシャーは!?」


「よ、善君、か、勝てるかな?」


「……学園の先生達との模擬戦や、格上の相手との戦いでもこんなプレッシャーを感じたこと無いぜ?」


「龍の踊り手の回復と支援役と言えば、アレナムという人です。

龍の祝福を受けてると同時に、敬虔な神の信徒と聞きます……

ただ、祝福した龍のカーネリア様と同じ様に、烈火のごとき攻めをみせる時が有ると聞きます」


ケイティはジリジリと後ろに下がりながらそう言って、皆に説明をする。


「お!?よく勉強してるね!

ただ1つ違うのは敬虔な信徒っても、神じゃなく……龍のカーネリア様を信仰してるんだけど、な!」


アレナムはそう言うと共に凄まじい勢いで突進してくる、そしてアレナムが最初に狙ったのはネイサンんだった。


一瞬で自分の目の前まで詰めてきたアレナムに驚きながらも、ネイサンは慌てずにカイトシールドを持つ左手を前に出し、両手でも使えるバスタードソードを持つ右側の体を少し下げる。


この半身の構えは前衛職、特に盾職には必須の構えで、盾で敵の攻撃を押さえるなりいなすなりして勢いを削ぎ、引いた方の手に持った武器で敵を攻撃する、鉄板とも必須ともいえる体制だった。


そして目の前まで来たアレナムを見て俺をバカにしてるのかと考える、何故ならアレナムはバカ正直に正面から盾を殴り付けてきたからだ。


アレナムは重装備で防御力は高そうだが、メイスをしまい籠手を着けた手で殴りかかってくる。


アレナムの身長は175cm位でユノガンドの女性としても高身長だ、だがネイサンは190以上あり体重は倍以上有るだろう、だからこそネイサンは盾でしっかりと防ぎ、バスタードソードで軽く振り払おうと考えていたのだが。


「―――ッシ!」


[ドン!]


「な!?」


アレナムのアッパーパンチが盾に当たると、アッサリとネイサンは吹き飛ばされた。




「う、ウソだろ!?ネイサンはかなりの腕の盾職だって、ヒロさんも言ってたのに!」


「よ、善君、ケイティを守って魔法で攻めるのよ!」


「少しで良いから時間を稼いで!

……闇よ!集い集まりて、敵を薙ぎ払え……ダークネスバレット!……え!?」


ケイティは周囲に有る闇を利用して、闇系の魔法をさらに詠唱をして威力を高めて放とうとした、だが魔法は寸前で発動せずに集まった闇と魔力は霧散した。


「これでも回復支援要員なんで、魔法はある程度使えるのよ?フン!」


「グゥ!?」


ケイティの魔法はアレナムの妨害で、キャンセルされてしまったようだ、さらにアレナムは右フックを放ち朝日を殴り飛ばす。


「ホラホラ!残るは装甲の薄い剣士の子と魔法使いの子だけよ?

男の子なら気合いを入れて守りなさいな!

でないと……彼女達の可愛い顔を殴るわよ?」


「く!守られるだけの、か弱い女じゃないわ!」


「魔法がダメなら、杖術で!」


桐澤はマチェットで切りかかり、ケイティは杖を振るい殴りかかっる、しかし―――


「……嘗めてるの?」


「な!?」


「キャア!?」


アレナムが腕を一振りすると、桐澤のマチェットとケイティの杖は軽く弾かれてしまい、吹っ飛んでいってしまった。


「か弱くない?杖術?子供のお遊戯かと思ったわ!

それよりナイト君達は、早く復活しないとお姫様がボコボコにされちゃうわよ?」


「よ、頼子……ウゥ!」


「ケ、ケイティ、逃げろ!」


桐澤とケイティはアッサリと攻撃を弾かれて、得物が吹き飛ばされた事に驚いていると、そこにアレナムが眼前に来てニコリと笑いながら2人に語りかけてくる。


桐澤とケイティの2人は今更ながら、実力のあまりの違いに気がつき、完全に怯えて動けなくなってしまう。


そんな2人をアレナムは呆れたように見て動けないのを確認すると、朝日とネイサンの方をバカにしたように見てニヤリと笑う。


「「ち、畜生!」」


朝日とネイサンは恋人を助けるために、なんとか体を動かそうとするが、吹き飛ばされた時のダメージが残っていて思うように体が動かずに歯ぎしりしていた。




「さてっと、あんた等の敗因は分かる?

顔を見れば分かるけど、ここまで一方的に、しかもほぼ一撃で負けるとは考えてなかったでしょ?」


アレナムは身動きの出来ない朝日とネイサンを蹴っ飛ばし、怯えて動けない桐澤とケイティの元に転がしてくると、4人を見回して言う。


朝日達4人は悔しそうにアレナムを睨むだけで、何も言えなかった。


「その顔をじゃあ、分かってないわね?

まぁ敗因は色々有るけど、一番の問題は実力差が分からない……いいえ、分かろうとしなかったことね?」


アレナムの言葉に朝日が苦々しく問い返す。


「……どう言うことだ?」


「あんた等はさぁ、挫折したことないでしょ?

例えば勉強、スポーツ、それに人間関係とか?

で、知らず知らずに人を見下してた。

それで私を見て、こいつ1人位なら4人でかかれば楽勝とか考えてたでしょ?それでどう?圧倒的な実力差を体感してみて」


思い当るところがあるのか、4人はうつむき何も言えなくなってしまう、それを見たアレナムは突然に問いかける。


「ってかさ、私達4人の中で、1番強いのは誰だか判る?」


いきなりの質問に戸惑いつつも、朝日達はそれぞれに答える。


「それはやっぱりあの剣士の……レイナって、呼ばれてた人じゃ?」


「ドライト様にも止められてたしな?」


「私はあのセイネって言う猫耳の子が、厄介な気がします……」


「リティアさんです。

あの魔力は噂以上でした!」


朝日、ネイサン、桐澤、ケイティ順でそう答えると、アレナムはニコリと微笑み答えた。


「私よ、本当に微妙な差だけど、私が1番強いわ?

信じられないって顔をしてるわね?確かに私にはレイナみたいに一撃の重さでの殲滅力はないわ?

セイネみたいなトリッキーな動きや素早さも無い。

リティアみたいな莫大な魔力での圧倒的な攻撃力もないわね?

でもね?総合的な力なら私が1番なのよ?」


「「「………………」」」


「何にしろ私の勝ちね?

さて、ドライト様をバカにしたり、私達になめた真似してくれたんだから、何かしら罰を与えなくちゃね?」


「「「!!」」」


アレナムに罰を与えると言われ、4人は身を寄せあって震える。

そんな4人にアレナムがニヤニヤ笑いながら近づいていると、横から声がかけられる。




「罰ですか?私も罰を与えないといけない人が居るんですよ?」


「フフフ……ドライト様も認めて……ドライト様!?」


横から声をかけてきたのはドライトだった。


「ド、ドライト様!そのお姿は一体!?」


アレナムが慌てて声のした方を見ると、パタパタとドライトが飛んでいた。

飛んでいるのは良いのだが、頭にマチェットと杖が刺さっていて、とても痛そうだった。


その姿を見てアレナムは驚くとともに嫌な予感がして、ジリジリと後ろに下がる。


「先ほどこちらに向かっていたら、このマチェットと杖が円さんに向かって飛んできましてね?

で、レイナが「危ない!」っと言って防いだんですよ……私で!」


「そ、それでレイナは?」


「私をえらい目にあわせてくれたお礼に、お尻をかるーく撫でてあげたんですが……何故か向こうで倒れてます!」


そう言ってドライトが指差した先には、レイナとセイネが悶絶しながら倒れてた。


「セ、セイネはなんで!?」


「いやあ、こんな酷い目にあった私を指差して笑ってくれたので……お尻を揉んであげたんですよ、優しくね!」


そう言って近づいてくるドライトから、ジリジリと離れながらアレナムは言う。


「女の子のお尻を撫でるとか揉むとか、セクハラですよドライト様!」


「なら、アレナムは叩いてあげますね?」


そう言われたアレナムは言い訳も何もせずに潔く全力で―――逃げ出した。

が、あっという間に捕まり、ドライトに尻を一発、かるーく叩かれたのだった。




「「「――――――!!」」」




声も出せずに悶絶する3人の龍の踊り手達、見てはいけないものを見てしまった気がして目を背ける円に朝日達8人、そんななかでケイティがふっとドライトに質問した。


「あ、あのドライト様、頭にマチェットと杖が刺さってますけど、本当に刺さっているんですか?

それに本当に痛いのですか?力ある龍なのに……?」


そんなケイティの質問に、ドライトはプンプン怒りながら言う。


「何を言ってるんですか!

こんなに尖ってて切れ味鋭い物が飛んできたんです、刺さるに決まってるでしょう!

それに物が頭に刺されば痛いのですよ!そんなことも知らないんですか!?」


そう言って頭に刺さっていた杖とマチェットを手に取って抜き、ケイティ達に見せるドライト。

ちなみに頭には刺さった跡どころか、傷1つ無い。


「き、傷1つ無いじゃないですか……!」


「そ、それに頭に物が刺さったら痛いじゃすみません……!」


「ぜ、全然痛みが引かないんですけど!?」


アレナム達が尻を抱えながらそう指摘するとドライトは―――


「……まぁ何にしろ勝負はついたんですし、リティア達の所に行きましょう!」


っと言って飛んでいってしまった。


尻にとてつもないダメージをおった3人娘は、


「「「……もしかして騙された?……叩かれ損!?」」」


っと至極当たり前の感想を言い、悶絶するのだった。




何にしろ朝日達とアレナムの戦いは、アレナムの完勝で終わったのだった。

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