p6 美しき日本女性
私はモラエスが日本について記している中で、日本の女性〈むすめ〉について書いているところが生き生きとしていて好きである。
「日本の女は、たとえそれが国民のどんな卑しい出の娘であっても、乙女であれば、大変美しい。醜い娘は希にしかない例外である。・・・むすめの魅力を記述することは、西洋の言葉でそれを表現する方法がないので不可能な業である」と、たいそうなのである。
「強く目を引くのは人類の顔の中で最も美しい顔付き、卵型の小さな、小さな顔をした得も言われぬ優美さである。いつも微笑みをたたえている桜桃の格好をした薔薇色の唇の新鮮さである。扁桃の実の形に裂けて顔に彫りこまれている可愛い目に燃える黒い炎である。その物腰の優美さである。たいてい白椿の色をしたむすめの手には往々驚嘆するほどの線の調和がある。人種的に小さいその足は、素足なので現実と思えないほどのびのびしている。むすめの魅力はその生活ぶりにある。鄭重という点では、遠い昔から真の学芸の極地にまで高められているこの日本の鄭重さを想起させるような国は今も昔にヨーロッパにない。そしてむすめの魅力は上記のすべてにある、と同様、この最後の点にもある。そのすべての個性、そのすべてのあり方と感じ方の異国情緒にある。そのちょっとした表情も、すでにぼくたちには、一つの驚き、一つの啓示なのだ」
着物とお帯との調和した姿にそれを見る。上層の女性にではなく、〈げいしゃ〉やそれより貧しい一般の〈むすめ〉の中にモラエスは見るのであった。
モラエスの最後はワインに酔って土間に転落した孤独死であった。徳島においては西洋乞食とまで揶揄されたが、このように美しい日本の女性の中で死ねたのは幸せだと思わねばならない。日本の〈むすめ〉のちょっとした仕草の優美さが随所に書かれている(『日本の追慕』)。日本女性はここまで書かれているのである。モラエスの本を何か一冊読んで欲しいと私は思うのである。
ちなみに日本の男性については、審美上では日本の女にひどく劣っている。筋力が貧弱で弱々しく醜くすらあると言ってこちらは手厳しい。しかし聡明な賢者や瞑想する思索者に似た広い額、時には霊感を受けた人に似た深い眼差し。しょっちゅう微笑みかける大まかで鄭重な微笑を持っていると書かれているので少し安心あれ。
日本人全体については、聡明で朗らかで移り気で浪費的である。自然の美を強く感じる。あまり発明的でないが、異国の産業、技術、科学上の処置を採用して、それを自由に改変して独自の高さに引き上げる驚嘆すべき能力を賦与されている。と見ている。
晩年、モラエスと深く交際した人や、親切に世話をやいた人もいるが、この時代の徳島で見る外国人もなく、日本の庶民には「変わった毛唐人」でしかなかった。
『徳島の盆踊り』で「無知な日本の庶民には、ヨーロッパ人はすべて有害なものとして映る。紅毛碧眼の白人というだけで・・。ちょうど、蛇と蝮が似ているために、無害なる蛇もまた憎悪を受け、全く無害である私もまた、白人であるがゆえに嫌われる」と書いている。それでも「ポルトガルの田舎で、着物姿の日本人が歩いているよりは、ここ徳島の人に愛されている」と、好意的である。けなげにも日本を愛し、日本人を理解しょうと勤めた。
モラエスは何をなしたるや、神戸領事としての仕事は優秀であったようであるが特別な政治的業績でもない、日本をヨーロッパに紹介したというが、ポルトガル語という限定があり、英語の八雲には劣るのは仕方がない。文学的評価も八雲の方が上である。
モラエスは無条件で日本を愛し、日本の女性を愛した。庶民の中に入って暮らし、観察し、日本を見た。それが故に、表面的な異国情緒としての日本を見る外国人とは違って、その洞察は深い。私たちはそれに共鳴する。
日本人以上に日本を愛し、理解しながら・・日本人になれなかったモラエスは、「幸せだったのだろうか、不幸だったのだろうか…」
宗教について日本は仏教と神道が対立するものでなく、自然に一体となるものであって、死ねば一介の庶民も「神や仏」になり、家の祀られる存在であり、輪廻転生、花になり、虫になり、獣になる。「殺生すべからず」の思想はここからくる。キリスト教の絶対的な神とは違うおおらかなで、身近な宗教に親近感を抱く。
歳を重ねて私も、何かモラエスが言う宗教的習慣の大切さを感じるようになった。そして現代的になったとは言え、まだモラエスが賛美したものをたくさん残している、日本女性の中で暮らせることに、改めて感謝している。
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