仕事は幸せである
エージは宮殿からみすぼらしい家族のもとへ帰ってきた。今日は泊まりこみで仕事をするつもりだったのに、なんてことだ!!と後悔しながら。家庭の中では、不満や愚痴があふれている。「エージさん、1週間ぶりの帰宅ですね」妻のヨーコは、事実を述べただけかもしれない。だが、やけに目が穏やかでない。この家庭というものの中には居場所がないのだ。エージな、ため息をつき、部屋で仕事の続きをしようとする。「エージさん!!お風呂はいるなら、早く入ってね」娘の声だ。エージは娘と久しぶりに会って、娘の背が高くなっているのに気づく。エージを追い越しそうなのを、だからどうした、と言い聞かせる。風呂に入り、不自由を感じる。なんでも家庭では自分でやらなくてはならない。こんな家庭などに意味があるのか?エージは一刻も早く会社という園に戻りたいと願う。会社の宿泊施設が、工事さえしていなければ、、、。寝巻きにたどたどしく着替えてベッドに入る。やけに寒い。我慢だ、我慢だ。エージは言い聞かせる。目が覚めれば、会社に行けるんだ。大広間のほうから、娘と息子?と妻の笑い声が聞こえてくる。会社の一級パレスであれば、こんなことはない。歯噛みする。そうこうしているうちに、眠っていたらしい。エージは目覚めて、朝が来ているのを確認すると、楽しい仕事へと向かう。ヨーコが眠そうな声で聞いてくる。「次帰るのはいつ?」エージは内心、思う。(俺は家に帰るのではなく、会社に帰るのだ)なんという喜び、今日は15時間は働けるな。時計を見ると朝の5時半だった。もちろん残業手当は出ない。だが、皆幸せなのだ。仕事をするってことは、無上の幸福を与えてくれる。エージは、携帯用点滴を自分で打つ。さあ!!幸せの1週間の始まりだ!!法律なんかクソくらえだ!!いくら、働こうが、個人の自由だろう。それをごちゃごちゃ言ってくる政府はうっとうしい。上司が原因不明の病気で亡くなってから、ひとつポストが空いたらしい。おそらく次の昇進は1日20時間働いているサトーだろうな。仕事の効率も最高だからな。エージは、もっと仕事を効率よくしなければ!と決意を新たにする。なんて幸せなんだ。仕事に、熱中できる喜びに、エージは、どんどんのめりこんでいく。1日23時間仕事した時、ふいに意識を失う。気づくと病院のベッド。医者が、つまらないことを言う。過労死寸前です、だって?俺は幸福なんだよ!ほっといてくれ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます