階級-クラス-

「リヴァイアサン。色々聞きたい事があるの」

 ――なんだい?


 あれから数日。

 日常は何の変化もなく過ぎ去り、深夜の非日常もあの日――大剣と長槍の激突――以来、他の戦斗少女との接触はなかった。

 四月は、そろそろその半分が終わろうとしていた。


「……階級って、何?」

 ――君らの冠する罪には、階級クラス――つまり、上下関係がある。とはいえ、そこに圧倒的な力量差があるわけじゃない。

上位スペリオルって言ってたのは、そういうこと……」


 ということは、あの大剣を振るう少女は、上位の階級に位置するということか。

 ふと、始まりのグループチャットのことを思い出す。


「もしかして、あの番号って……」

 ――ご明察。あれが、階級番号だよ。


 その一言を聞いて、私は軽く落胆した。

 つまり、私の階級は第六位……ブービー賞だ。


「……色々賑やかだった、4と7は、それぞれに対応してるってことね……」

 ――その通り。

「ちなみに、一位から七位までは何の罪に対応してるの?」

 ――実は、それはわからないんだ。

「どういうこと?」

 ――まあ、知らされていないというのが正しい。君が「第六位の嫉妬」であることは、僕達だからこそ知り得る内容ってこと。


 第六位。戦斗少女の中でも、どちらかと言うと劣等生ということか。

 なるほど。特別な集団に属しても尚、私の凡庸さは健在らしい。最下位ですらない、ということがまさにそれらしくある。


 ふと、唇に指を当てて考える。

 長槍使いの少女の、あの飄々とした口調。そして、冷徹な表情を崩さない大剣使い。

 どうやってかは知らないが、長槍使いは、大剣使いのことを「上位」だと評していた。

 あの軽い感じも、無愛想な感じも、グループチャットのそれと同じであるとしたならば。

 長槍使いは「第四位」か「第三位」大剣使いが「第二位」か「第一位」といったところか。


「……第六位と、かなり差が開いてるじゃないの」

 ――さっきも言ったけど、階級差が絶対的な力量差に繋がるわけじゃない。途中までは、槍使いが圧倒していただろう?


 確かに。戦法による相性差というものはあるのだろう。

 私の戦闘スタイルは、近接戦の中でも更に接近した、徒手格闘だ。間合いは最短だが、その分最速の行動が出来る。

 しかし、あの神速の槍術を目の当たりにして思う。あの刺突の雨を掻い潜って、自らの間合いに接近することが果たして可能なのだろうか、と。


「どうやったら、わかるのかしら」

 ――情報アドバンテージを得るつもりかい? まあ、手っ取り早い方法は一つある。

「それは?」

 ――相手を倒せばいい。装甲限界までのダメージを与えると、変身は解除されるから本来の姿が露わになる。サポートAIが分かれば、罪の名も看破できる。

「あの大剣使いも、それを狙って?」

 ――意図はわかりかねるけど、可能性はあるね。


 そこまでして、相手の情報を暴き立てることに価値があるとは思えないが……だが、私はこの戦斗少女のこと、ベアトリーチェのことについて、あまりにも無知すぎる。

 悪魔となし崩し的に契約して、流されるがままに半月が過ぎてしまった。

 シェイドとの戦いには慣れてきた。だが、それだけだ。

 この戦いの本質について、私は未だに何も知らないのだ。


「……そういえば、夢をかなえるだとかなんとか言ってなかった?」

 ――そうそう。ベアトリーチェとの契約期間は一年間。その一年間の成績に応じて、望みを叶えるというもの契約の内なんだ。

「悪魔らしいわね……それは、どんな望みでも?」

 ――戦果によるけどね。でも、富、名声、権力、能力。方向性に制限はないよ。

「………」

 ――今の君にとっては、明確な願いはなさそうだね。

「まあ、ね。シェイド狩りもゲーム感覚だから……」

 ――まあ、一年以内に決めてくれればそれで構わない。あくまでモチベーションを維持するためのものなのだから。


 モチベーションを維持するため。

 ということは、この影狩りということも、何らかの必要性があるということか。

 ベアトリーチェ管理局。始まりのグループチャットにいた八つ目のアカウント。

 それこそが、全てを管理しているというのだろうか。

 誰が、一体何のために。

 だが、今はそんなことは瑣末なことだった。

 この平凡な日々に、いい娯楽が与えられた。私にとっては、その程度の認識だったのだから。 


 ――お話はこれくらいにしておこう。シェイドの気配だ。

「ええ。わかったわ」


 ホーム画面に光るアイコンをタップ、アプリを起動する。

 冷たく光るガラス面に指を這わせると、光の軌道が周囲に踊る。

 そして、画面に映る"もう一つの私の顔"に微笑みかけて、シャッターを切った。

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