同類-スタンドアローン-
ピ ピ ピ
スマホのアラームが本調子になる前に、速やかに止める。
部屋はまだ寒く、春の訪れを未だ感じさせない。しかし、その冷たさが私の頭を速やかに覚醒させた。
――おはよう。
「………」
アラームを切ったはずの画面が点滅する。
「……起動してないはずだけど」
――バックグラウンドで待機しているからね。
戦斗少女変身アプリ、ベアトリーチェ。そしてそれのサポートAI、リヴァイアサンは相も変わらず、マスコットじみた声で、音もなく、脳内に直接語りかけてくる。
――目覚めはどうだい?
「……悪くない」
結局、昨日再び床に就いた時には深夜の四時をまわっていた。
現在時刻は七時。二、三時間しか眠れていない割に、身体は妙な活力に満ちていた。これも、ベアトリーチェの影響なのだろうか。
淡々と着替えて、朝食を食べるために一階に降りようとする。
「誰かがいる時に、話しかけないでね」
――了解。そういう設定にしておくよ。
◇ ◇ ◇
学校にはいつもより早くに着いた。
とはいってもやることがあるわけでもないので、またスマホのニュースサイトなどを巡っている。
その最中、ふと気になることを思い出したので、検索エンジンの入力欄に文字を打ち込む。
「七つの、罪……」
調べるとすぐに結果は出てきた。
七つの大罪とは。
すなわち「強欲」「傲慢」「憤怒」「暴食」「色欲」「嫉妬」「怠惰」の、七つの罪。
人間の罪の源。罪へと導く、七つの欲望、感情。
そして、私に冠された罪の名は「嫉妬」
このラインナップの中で「嫉妬」に選ばれたことは、何を意味するのだろうか。
自分自身、確かに自らの非力さにコンプレックスを感じたことがないかと言えば、それは嘘になる。
だが、このような選抜に耐えるほど――どちらかというと、選ばれてしまうほど――鬱屈しているかというと、そうでもない。
私自身の抱く妬み僻みは、それでさえもありきたりで、平均的な負の感情だと思っていたからだ。
選ばれる基準が、あったというのか? それとも、誰でも良かったのか?
「……あと、六人」
他の、六つの罪を冠するもの。
それが、誰かはわからない。だが、それがわかれば――私が、この罪の力を得た理由が、わかるかもしれない。
「おっはよー。あれ、今日はいつもより早い?」
「おはよう。まあ、少し早く目が覚めたから……」
小暮星良は、こんな私に対しても朝の挨拶を欠かしてこない。
全体にパーマのかかった明るい色の髪を指で遊ばせながら、星良は大きく欠伸をした。前髪を止める髪飾りは、日替わりで色を変えているようで、今日は水色だった。
「私は昨日の夜更かしが今に来てるよ……あーあ。どっかの授業中、寝ちゃいそう」
「寝ても問題ないでしょ」
一見すると如何にも体育会系といった彼女だが、同時に、学年トップクラスの学力を有している。
一体いつ勉強しているのだろうか、と聞いたことがあるが、授業を真面目に受けているからかな、などと返された。完全に、天才の理屈だった。
「……そういえば、セーラ」
「なに?」
「……」
数瞬の、間。
「……な、なんでもない」
「そう? まあ、何か思い出したら言ってね」
ふう、と。軽くため息を付き、胸の奥までせり上がってきた言葉を消化する。
ベアトリーチェのことを、知っている? そう尋ねようと思ったのだが、寸前で取り下げた。
それは、リヴァイアサンからも警告されていたことだし、何より、こんなファンタジーめいた話。頭のおかしいやつだと思われてそれでおしまい、という展開になりかねない。
そもそも――星良には、
◇ ◇ ◇
新学年早々の授業は、オリエンテーションなどが主のため、あっけなく進んでいく。
休み時間には、新しく一緒になったクラスメイト同士が連絡先の交換や、趣味の話し合いなどに花を咲かせているが、私には何の関係もない。
時々、そういった連絡網をコンプリートしたがるような生徒がいて、そういった人とは連絡先の交換をしたが、おそらく、今後活用することはなく埋もれていくのだろう。
「そういえばユーリ。あそこの席の子、知ってる?」
星良が指差した先には、一人の生徒が居た。
少し紫がかったような長い黒髪は、後ろから見ても所々がハネている。全く手入れしていないというわけではないにせよ、やや無造作に整えられた印象を受ける。
彼女も私と同じように、スマホの画面をずっと眺めていた。
「
「……他は全員集めたんだ」
彼女のことだ。さぞ、熱心なアプローチを掛けたのだろう。その点、その生徒には少々同情する。
「コミュニケーションは大事! まあ、名簿順だとトップだからね。名前はすぐ覚えたよ」
ふうん、と返して、しばらく様子をうかがってみた。
明野鈴音は、明らかに回りに溶け込めずにいた。
だがその姿に、親近感を覚えることはできなかった。方向性が違うように感じたのだ。
言うなれば、私は孤独で、彼女は孤高、とでも言うか。望んで、馴れ合っていないというような。そんな冷たい雰囲気を感じたのだ。
「どんなにアプローチしてもつっけんどんでさ。ユーリと似た属性かも、って思ったんだけど」
「私とは、違うよ」
それは、むしろ自虐にも似たトーンで。
「そっか。まあ、ユーリもさ。もうちょっと友達を作るための努力をね」
「別に、それはいい」
「むう。先は長いんだから、早め早めの行動が吉だよー」
「はいはい」
休み時間終了の鐘がなった。星良も席に戻り、私も次の授業のための教科書を取り出す。
明野鈴音は、終始スマホから目を離していなかった。私達の噂話など、一切耳に届いていないようだった。
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