奇妙奇天烈な小説の書き方
『奇妙奇天烈な小説の書き方』なるものが確立されて早一年が過ぎた。読み手にしてみればその技法は単純なものだが、書き手にしてみればこれほど難しい技法はない。『奇妙奇天烈な小説の書き方』とは、その技法を用いて流れを逆に記すことである。つまりは結から順列に起へと向かう。予想しうる通り、刊行された初め、読み手から恐ろしいほどの非難が巻き起こった。無理もあるまい。しかしながら、その技法を理解した読み手は必然とこれにのめり込む。さて、如何なることであろうか。物語が結から始まり、既に明らかにされている転や伏線へと突入していくのである。作者に余程の技力がなければ、読み進めるのに困難を極めることは言うまでもない。そこで本の忠実なる中毒者たちは思うのである。「後ろから読めばいい」そうすれば、こんなバカげた技法に振り回されることもない。さあ、読み手が当然行き着くそれこそが、まさに『奇妙奇天烈な小説の書き方』を確立した出版界の誘導であった。いわば仕掛けた悪戯の最高潮、その頂に達する一歩手前である。本の最後の頁から一頁一頁めくっていく読み手諸君の眉間には、例外なく皺が寄った。それは次第に深くなり、本の書き出しまで至ったとき、彼らはあまねく愕然とした。まったく、意味が解らなかったのである。起から読むとその物語は意味を成さない。奇妙奇天烈な小説の書き方、その技法とは、そういうものだったのである。読み手は一人残らず解読することに躍起になった。出版界は失いかけていた読み手を、本の忠実なる中毒者として留め置くだけでなく、その中毒性をより強固なものにすることに見事成功した、とこういう訳である。
こばなし @sho-ri
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