5.ふたつのせかい

光が見える

影が見える

光は人であり、人ではなく

影は人ではなく、人であり

境界の胡乱

人である影が死の際へと吸い寄せられていく

あれは死ぬの?

答えの代わりに人外は言う

生きろと言ってみたらいい

私は悲しくなった

それは言っていい言葉なのか、わからなかった

あるとき

死の際へと吸い寄せられていく影のなか

ほのかな光をみる

影に内包されるちいさな光

消えかけているちいさな光

生きろと言ってみたらいい

人外の声が耳の奥に繰り返される

私は

私は手を伸ばした

影のなかの光に触れる

手のひらに感触のあたたかさ

見悶えるような

かすかなふるえ

そのまま

ふるえる光を内包したまま

影はそこに立ち止まる

それからずっと動かない

立ちすくむように動かない

眠りも食事も必要ないから

私もずっと動かずにいる

立ちすくむ影を見ている

言葉をかけることもできず

見ているだけの私に

人外は何も言わない

ただ、彼もまたそこにいる

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