喰啼の願い

ピチャンッポチャンッバシャバシャバシャッ

誰かが水浴びでもしているのだろうか、水が跳ねるような音がした。

「…………はぁ〜……蒼瑕、人の水浴びを眺めるなんて、趣味が悪くないかい? それに僕は君と似たような身体つきをしているハズなんだけど…………」

「喰啼……」

音の正体は喰啼の水浴びだった。

喰啼は苦笑して水から上がると一瞬のうちに服を纏った。そして僕を見る。

「来てくれると思ってたよ、蒼瑕…………君なら、ね?」

「…………喰啼……君はどうしてそんなに、壊したがるの▪▪▪▪▪▪?」

「君が望んだから▪▪▪▪▪さ。蒼瑕、君がこの場所から『脱却したい』、『逃げ出したい』。そう思ったからボクは生まれたんだよ……」

「…………僕、が……?」

「そう、君が。君が無意識に心の奥底、深層心理の中で思った。だからボクは此処に居るんだ」

喰啼は笑顔で僕を見て言う。

「さァ蒼瑕、キミはどうする? 僕の手を握れば今の現状から抜け出せる。だけどあの鈴菜って子からはほぼ確実に避けられるよ」

「…………ぼくは……」

──僕は、どうなんだろう? どうしたいん、だろう……?

喰啼の言葉に不安が渦巻く。今までなら考えもしなかったモノ。関わる事も無かっただろう事。逃げ出す? そんなの無理だ、あの人たちから逃げられるとは到底思えない……。

長年続いた幼少時からの虐待は、蒼瑕のココロを錆び付いた見えない鎖が雁字搦めにしていた。

──逃げれない。苦しい、けれど……だけど…………

「やっぱり怖い▪▪?」

「! …………そうかも、しれない……」

「そっか〜……臆病者の▪▪▪▪キミにはまだ早かったかなぁ?」

「…………確かに臆病者、かもね……」

「だけど蒼瑕。時に暴力と恐怖は有効利用出来るよ? まさにキミがそうであったように▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪、ね?」

「解ってるから……言わない、で…………」

喰啼の言葉がココロを抉り、錆び付いた鎖がギシギシと嫌な音を立てて軋み、絞め付ける。次第に痛みが身体を覆い尽くし、視界が黒く染まってゆく。

「──蒼瑕、キミの答えを待ってるよ。出来れば良い答えが聞きたい▪▪▪▪▪▪▪▪▪なァ?」


喰啼の声が頭に響いて──そのまま俺はフェードアウトした。

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誰か、助けて…… 幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕 @Kokurei

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