人格の乖離
(…………身体が、おかしい……)
蒼瑕は虐待されながら思った。
「蒼瑕! 聴いてるの!?」
「……ッ…………ごめん、なさ……」
「なんで何時もアンタはそうなの!? グズでノロマで役立たずで! 生きる価値も無いゴミくずのクセに!!」
「……ッ……ごめんなさいごめんなさい……」
「あぁもう! 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!」
背中に熱く熱した菜箸が何度も何度も落とされる。その
(なんか、おかしい……)
蒼瑕は自分が虐待を受けているのを遠くから眺めている様な感覚に戸惑った。
ソレはまるで絵画を眺めている様な、ソレはまるで他人のイジメを傍から観察しているような、そんな感覚だった。
(……遂におかしくなったんだろうか……?)
「あ〜もう! 床が血で汚れちゃったじゃない! どうしてくれるの!?」
「…………ごめんなさい…………」
「はァ……もう良いわ」
と飽きた様に呟いて台所に母は消えた。多分
蒼瑕は血を全て舐め取ると、静かに立ち上がって自室に戻った。
「……ッ……痛、い…………」
蒼瑕は呟いて部屋に置いてある救急箱を取り出して、未だズキズキッと痛む火傷痕に薬を塗り、周りに見えない様に包帯を巻く。
「ふぁ……眠、い…………」
手当てを終えて箱を定位置に戻した所で急激に眠気が身体の中に浸透し内側から侵食していく。
気が付いたら蒼瑕は暗い深層心理の海に沈んでいった。
チャポンッ
「ア、レ……?」
蒼瑕は殺風景な海の上にポツン……と立っていた。何処までも続く、蒼い海はまるで世界の
自分みたいに穢れてしまった存在は、見てはいけないモノだと無意識に思ったからだ。
「此処、は…………何処? 俺は……?」
「目が覚めた?」
「エッ!?」
いつの間にか俺の後ろには俺と似たような顔付きをした(詳しくは知らないが皆が言ってた気がする)少年が立っていた。
その少年はニコッと偽物じみた笑顔を浮かべると、声を掛けてきた。
「やァ……会うのは初めてだね? 宜しく蒼瑕。ボクは
「
「うん
「…………此処は……何処?」
「此処は君の
「そうか……眠って…………」
言い掛けてふと蒼瑕はおかしい事に気が付いた。此処が俺の
「お前は……なんだ?」
「だから君が無意識に作り出した存在さ。君が……虐待やイジメに対抗する為に、作り出してくれた存在さ」
「…………喰啼は……何が、したいの?」
「なんだと、思う?」
俺の質問に喰啼は作り物めいた笑いを浮かべてそう、はぐらかした。
「…………あの状況から、逃げ出す……かな?」
「お✨ ご名答〜(笑)」
「けど、そんなの……」
「『
「そん、な……」
喰啼の言葉に絶句する。あまりにもその言葉は、現実離れしていたからだ。
「さァ……
「…………俺、は……」
蒼瑕は言い掛けて不意に意識が現実に引き戻されるのを感じた。
「おっと……
「え……」
喰啼は笑いながら俺に手を振って消えていった。
「〜〜〜〜〜ッ!?」
ガバッと身体を勢い良く起こすと其処は、静かな海でも何でも無い、自分の殺風景な部屋だった。
「ゆ、め……か?」
我知らず呟きが漏れる。
「蒼瑕、
「…………はーい……」
父が自分を呼ぶ声がして慌てて返事をして一階のリビングに降りていった。
席に着いた時にはもう、夢で見た奇妙な少年の事は頭の中から消えていた……。
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