鈴奈の相談

鈴奈からの電話を受けて鈴奈の所に向かった、生徒会執行部役員である、粟谷澄麗と埜口裕翔は鈴奈の自室に居た。

鈴奈は何時もは高い位置で結んでいる黒髪を下ろし、ベッドの上に体操座りで座っていた。

「……………………りぃ、来た」

「……………………ン……あぁスミちゃん……」

「りぃなっち俺も居るッスよ〜?(笑)」

「……………………埜口、五月蝿い。りぃ、大丈夫?」

「…………あはは……ゴメンゴメン裕ちゃん、いらっしゃい。大丈夫……」

何時に無く元気の無い鈴奈に澄麗が声を掛ける。鈴奈は遅れて返事をするが、やはり何処か上の空だ。

「……………………りぃ、相談、って、何かな?」

「りぃなっち……相談ってなんスか?」

「……………………………………………うん……今話すよ…………二人共、私のクラスに転校生が来たの、知ってるよね? その子についてなんだけど……」

「…………………転校生?」

「モチモチ知ってるッスよ〜✨ あの噂の大和撫子スーパールーキー!」

「うん、転校生……その子のね、様子が…おかしいの。私が言うのもなんだけど…普通じゃ、無いの……ッ……」

「………………りぃ……」

「りぃなっち……」

鈴奈が語った話は壮絶だった。

「…………蒼瑕君は凄いよ、ホントに凄い。勉強は何時も満点で一位、運動もちゃんと得点に貢献するし負けを知らない。だけどね、だからかなぁ……蒼瑕君の異様さ▪▪▪が目立っちゃうの。蒼瑕君は嫌な事でも『嫌だ』って言わないの。毎日30℃を超える暑さなのに『暑いなぁ〜』って言いながら長袖のパーカーを脱がないの。お腹や脚を蹴られたり殴られても『痛い』って言わないで、ずっと微笑わらって耐えてるの。辛いのを『辛い』って絶対に言わないの。段々窶れていってるのに、なのに……『助けて』って、『もう嫌だから止めて』って、絶ッッッ対に言わないの……もう見てる方が辛い位に、ボロボロなのに……なのに困った様に笑って『大丈夫だよ』って言うの……ねェ私は何をしてあげられるの? どうしたら蒼瑕君をイジメから助けてあげられるの? どうやったら蒼瑕君があんな苦しそうな笑顔で微笑むのを止めてあげられるの? ねェ私は……蒼瑕君に何をしてあげられるのかな?」

「「…………」」

「前に見たの、蒼瑕君の腕にリストカットの痕があるのを。彼は困った様に笑って『ごめん、醜いモノ見せちゃったかな?』って腕を隠して謝った。蒼瑕君は何も悪い事して無かったハズなのに……前にクラスの窓ガラスを教室でキャッチボールしてた子達が割った時もそうだった。先生が『誰がしたの?』って訊いたら、キャッチボールしてた子達が…蒼瑕君を指して、『蒼瑕が割ったんだ』って言ったの。その時蒼瑕君は窓際の席で本読んでたのに、出来る訳が無いのに、完璧な濡れ衣なのに蒼瑕君は困った様に笑って『すいません僕が不注意で割ったんです』って言いながら、先生に頭を下げて割れたガラスを片付けたの。自分の手が傷付くのも構わずにただ黙々と片付けたの……そうしたら先生も怒るに怒れなくて、『次からはしないようにね?』って言って何時ものように帰りのHRホームルームが始まったの……私がおかしいのかな……? もう、解らなくなってきたよ…………」

「…………………………りぃは、おかしく、無い。おかしいのは、教室での、空気と、蒼瑕の、対応の仕方」

「澄麗っちの言う通りッスよ〜……話を聴いてるとその『蒼瑕』って子、妙に慣れてるみたいなんしょ? 慣れてるって事は過去にも…若しかしたら現在進行形で合ってるのかもッスけど、経験があるって事ッス。例えば……家庭での虐待、とかッスね」

「ぎゃく、た……い…………」

「…………………………どの道、蒼瑕の対応の、仕方は……おかし過ぎる。必ず、何か、あるよ……」

「そうッスね〜……取り敢えずちょくちょく本人とは会話しといた方が良いッスね。俺は友人ダチにも声掛けとくッス」

「あり、がと……」

心強い二人の言葉に思わず涙声で礼を言う鈴奈の頭をそれぞれ軽く撫でて頷く。

「…………………………友の、相談は、最優先」

「任せとけッスよ!」

そうして二人は部屋を後にして帰っていった。

「…………………………蒼瑕君……大丈夫かなぁ……?」

鈴奈の小さな呟きは誰に届くでも無く、風となって消えていった。

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