第3話「上砂川線」

里見さんは課長に外出許可を取りに行っていたらしく、僕は里見さんと共に砂川駅5番線、他のホームとは離れた構内の外れにある上砂川線用のホームにいた。ここへは長い長い跨線橋を渡って行く。眼下には石炭を満載した石炭車が並んでいた。

朝なら本数が1時間に3本程度あるが、昼間は貨物を優先するために1時間に2本程度になる。10時丁度に発車する普通列車は富良野行きで、キハ40形とキハ160形の2両編成での運行だ。


「間もなく10時発の普通列車富良野行き発車しまーす!」


駅員の中川の声が駅に聞こえ渡る、東口へ抜けるための構内踏み切りが下がり列車は発車した。

キハ40形はDMF13形エンジンの音を響かせて走り始め、水路のガーダー橋を潜り少しづつ勾配を登っていく。


『まもなく北吉野、北吉野です。高速バス砂川吉野バス停はお乗り換えです』


線路が2つになり島式ホーム2線の北吉野駅に到着した。周りには高速道路と建設途中の新幹線の高架橋が見える。駅の広告看板には『北海道新幹線先行開業区間の早期開業を!』と書いてある。新幹線を沢山増やしてどうするのか。


「白矢、お前は上砂川線の歴史を知っているか?」


「久北鉱業の専用鉄道として開業したんですよね、後に砂川鉄道として独立したとか」


「その通りだ。1918年に久北鉱業の専用鉄道として開業し、戦後の1946年の財閥解体時に砂川鉄道になった。そして1972年11月には上砂川岳温泉駅まで延伸開業を果たす。1994年5月16日には富良野線が開通する。では、1972年の延伸開業時に新造した車両が何かは知っているか?」


「うーん……」


 答えに詰まるしかない、窓へと目をそらすと鶉駅の駅舎が目に入る。入れ違いのために2面2線のホームになっている鶉駅に到着すると、反対側からも普通列車がやってきた。キハ143形2両編成だ。


「わからないか?」


「すいません、わからないです」


目をそらして答えないことにしびれを切らしたのか、里見さんが話を進め始めた。


「今朝、社長が持ち込んだキハ22形と同じくキハ22形だ。2両居たが、1994年の富良野線開業時に廃車、片方は蒼鉄へと譲渡した」


「もう1両は?」


「沿線の企業で使っている」


「そうなんですか、どこにあるんです?」


「着いてくればわかるさ」


里見さんは簡単には教えてくれない。列車はカーブし始め、上砂川駅のホームへと滑り込んで行く。

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