第13話 理の門

 門に近づくと光り輝いている物が何かがわかってきた。門には僕達のガラス玉と同じ物がいっぱい埋め込まれていて、中央の黒い点が光を出していたのだ。反射で光っているのかもしれない。とにかく光っているように見える細工になっていた。厳密に言えばこれ自体ガラスではない不思議な物体ではないだろうか。そう思った方がよさそうだ。きっとこの中のひとつが僕の持っているガラス玉なのだろう。僕はなぜだかホタルが光るとこうなるのかなと関係ないことを考えていた。

 僕達は斉藤天狗のあとについて門の中のトンネルを進んだ。入り口からの光が遠ざかりだんだん暗くなってきた。それもすぐ終わり僕達は開けた明るい場所に出た。

「ここじゃ」

 僕と美織は息を呑んだ。

 川が流れている。僕達の足下は草の生えている草原だ。川縁は石がゴロゴロしていて川には車一台通れそうな橋が架けられている。向こう岸までは三〇メートルくらいか。いや四〇メートルか。とにかくよく伝え聞く三途の川の情景そのものだった。あの門の先にこんな世界が本当にあるのだろうか。小説や漫画の世界じゃあるまいし、騙されているのではないだろうか。

「これって三途の川でしょ?」と美織が言った。

「僕もそう思う。伝承そのものだ」

「そうじゃ。拍子抜けしたか?呼び方は色々じゃが、古より変わらず存在するものじゃ。ごく少数ではあるがお前達のようにこれを見た者が語り継いできた場所じゃ。……あの橋を渡るとお前達の世界でいう『あの世』じゃろう。ワシは人ではないから橋より先へは進めない。……それよりもまずはあのガラス玉を出してみるんじゃ」

 ガラス玉は何かに反応するように光り輝いていた。何に反応しているのだろう。辺りを見渡すと光り輝く場所が見つかった。出口か。

「それは『迷い玉』というものじゃ。門番が必ず『念』を入れてから一個だけ渡す。それがないと帰れなくなる。出口が見えなくなるんじゃ。正確には出口が開かない。お前達の出口は見えとるか?入った場所が一緒の者なら出口も一緒じゃ。他人の迷い玉では出口は開かない。自分の迷い玉である必要がある。迷い玉は一人一個だ。失ったらそれで終わりじゃ」

「見えてます。あそこ」と僕は場所を指して言った。

「私も同じ場所よ。一緒でよかった」

 僕と美織は同じ場所に出口が見えていた。でも、それじゃ、それじゃ母さんは戻れない、母さんの迷い玉は仏壇の引き出しの中に……。

「いいか。出入り口は無数にある。あっちこっちに『理の門』は存在するからな。そして、どこの門から入ってもこの橋は一本じゃ。必ずここに辿り着く」

「そうかわかったぞ。僕達の世界で肉体を失うと、つまり死ぬと、魂が『理の門』を通って三途の川へ来る。でも魂は迷い玉を持っていないからもう『実体の世界』へ戻ることはできない。成仏するには橋を渡ってあの世へ行くことになる。今の僕達は迷い玉を持っているから戻ることができるが、もしあの橋渡ってしまうとあの世へ行ってしまう」

「おそらくそんなところじゃろう」

「……ねえちょっとあれ、橋の真ん中で誰かしゃがんでいるよ」と美織が言った。

「なんじゃと!」

「……小さすぎてよく見えない。もっと近くへ行こう!」と僕は言って進んだ。

 女の子だった。橋の真ん中までは行っていない。もっとこちら側だ。しかし橋を渡って向こう岸に行ってしまうとあの世だ。

「おーい、こっちに戻っておいで」と僕は無意識に叫んでいた。

 女の子は僕の声に気づいたが、しゃがんだまま動こうとはしない。誰かと話しているようにも見えたが、相手の姿はもちろん僕には見えない。

「爺さんとしゃべっておるな。爺さんは帰れと言っとるが娘は懐かしがって帰ろうとしていない。あの時のリョウタと一緒じゃ」

「お嬢ちゃんこっちおいで、お姉ちゃんが遊んであげるから」と美織も必死になって叫んだ。

 僕は斉藤天狗の言葉が気になったが今はそれどころじゃない。今はあの子をこっちに戻すことが優先だ。

 女の子は動こうとしない。まるで母親が帰るよと言っても駄々をこねて動かない小さな子供みたいに……。これでは埒があかない。

「斉藤さん、僕があそこまで行って女の子を連れ戻します」

「危険じゃ。ワシは何か強い力によって橋には一歩も入れん。この先は何が起こるかワシでもわからん」

「でも、だからといって、このままあの子を置き去りにすることはできません。急がないと。……向こう岸まで行ってしまったら終わりです」

「私も行く。二人でなら助けられる」

「……うーむ仕方ない。ここから声をかける。引っ張られないよう気を強く持て」

「行くよ」

 僕と美織は手を強く握り合って橋に足を踏み込んだ。

 その瞬間ビリッと頭の中に映像が見えてきた。これは……母さん。それに赤ん坊を抱いて。この赤ん坊は僕か。

「……見えたか。それはお前達の記憶じゃ。そこは『記憶の橋』と呼ばれておる。ワシも話にしか聞いたことがない。橋を進むにつれ今までの記憶が走馬灯のように駆け巡るようじゃ。思い出したくない記憶も見えるじゃろう。気をしっかり持て!」

 美織にも見えているようだった。

「美織大丈夫か?」

「うん。あの子を助けなきゃ」

 僕達は一歩二歩とゆっくり進んだ。若い頃の父さんそれに母さん、三人で一緒に行った動物園。怒られて押入に入れられた夜。小さい頃の美織、十一歳の夏、ホタル丘、え?ここと同じ場所。母さん……

 ……わかった。

 僕はやっとわかった。十一歳の夏、ホタル丘で僕に起こった全ての出来事が。理の門の中で何が起きたか。自分の記憶を見たことで。……やっとやっと。

 女の子まではもう少しだった。

 美織は涙を流していた。彼女も昔の記憶を見ている最中だ。でも決してつないだ手を離さなかった。

「もう少しだ、しっかり気を保て」と斉藤天狗が声をかけてくれている。

 僕は女の子の肩に手をかけた。もう大丈夫だ。僕の記憶の映像は中学三年の頃で止まった。

 女の子はあの頃の僕達と同じくらいの年齢だった。

「お嬢ちゃん何してるのかな?私の名前は美織よ。お姉ちゃん達と一緒に向こうへ帰ろう」と美織は優しく声をかけた。

「今おじいちゃんと話してるの。去年死んだはずなのに居るの」

「僕は亮太。名前なんていうのかな?」と僕は訊いた。

「こじまかなえ」

「かなえちゃんか、かわいい名前だね。おじいちゃんは疲れてるみたいだから今日はもう休ませてあげよう。かなえちゃんはもう大きいからわかるよね。僕達と一緒に向こうへ帰ろう」

「……そうね、ずいぶん長い間話したもんね。わかったわ。ミオリお姉ちゃんと手つないでもいい?」

「あら嬉しい。かなえちゃんかわいい」と美織は言って手をつないだ。

「じゃあおじいちゃんにバイバイしよ」と僕は言った。

 その時、美織も誰かとしゃべっているようだった。

「うん、うん。ありがとう」と言って泣きながら僕の方を見た。

「おばあちゃんよ。今ここに来てくれてる」

 もちろん僕には見えない。……じゃあ、僕の母さんは……僕は辺りを見回した。

 いた!

 向こう岸。遠くて小さくしか見えないけど、ぼうっとした光に包まれた母さんだった。 なぜあんなところにそれに向こう岸は完全にあの世じゃないか。

 母さんは斉藤天狗と同じように何かに遮られて橋には入れないでいるようだった。何故だろう。それでも身振り手振りを交えて、僕に戻るように言っている。「亮太!こっちは駄目ーー 女の子を連れて戻ってーー」

「母さーーーん!」と僕は思いっきり叫んだ。

 今すぐ向こうに駆け寄りたかった。でもそれはできない。そんなことはできない。わかっている。でも。でも僕は……。

「また来るよ、母さーーーん」今はこれしかできない。長居は禁物だ。

 僕達は三人揃ってそれぞれの相手に手を振った。

 そして今度は記憶が遡るように映像化され斉藤天狗のところまで戻った。

「二人ともよくやった。本当によくやった」

 僕達は汗やら涙やらを流しクタクタになっていた。

 僕はリュックから綺麗なタオルを取り出して顔を拭いた。美織もハンカチで涙を拭っていた。

 斉藤天狗は難しい顔をしてかなえちゃんと話し込んでいた。

 しばらくすると僕達のところへやってきた。

「昨日ここに入ったようじゃが、迷い玉を持っていない。男の人にビー玉は貰ったが友達に取られないように隠したと言っておる。これでは戻れない」

「そんな……」美織は絶句した。

「そこの門番の人に、隠した迷い玉を探して持ってきてもらうことはできませんか?」

「既に渡したあとでは無理じゃな。本人の意思による出来事にワシらは手出しができん。まだ渡していなければこの門の中で渡すことは可能だったのじゃが。リョウタがそうじゃった」

「ねえ亮くん、かなえちゃんは札幌の四年生だって」

 美織はかなえちゃんと手をつないで話している最中だった。

 札幌?……。まてよ。こじまかなえ……、あっ!

「斉藤さん、かなえちゃんはここにあと何日いられますか?」

「あと一日や二日は大丈夫じゃろうが、それ以上は実体の体が持つかどうか……」

「わかりました。もうひとつ。ここ以外の理の門は僕に見えますか?例えば札幌の……」

「それは無理じゃ。リョウタが開いた念の世界はあくまでここじゃ。ワシやここの理の門に呼応しているだけじゃ」

「そうですよね……。僕にひとつ案があります。うまくいけば迷い玉を持って来られるかもしれない。それまでかなえちゃんをお願いできますか?」

「それは大丈夫じゃが……」

 それから僕はかなえちゃんに質問した。

「かなえちゃんはビー玉をどこに隠したのかな?」

「公園で男子に取られそうになったから向いの神社にある狛犬の後ろに隠したの。石の下よ。それでも追いかけてくるから光ってる方に逃げたの。あの男子、私大っきらい!」

「ありがとう。よし、美織、急ごう。斉藤さん、戻るまでよろしくお願いします」

「かなえちゃん、すぐおねえちゃんも戻るからね。斉藤さんもありがとう」

 僕達は急いで出口に向かった。


 僕達がおじいちゃんの家に到着したのは正午だった。誰もいないのでおじいちゃん達は昼食を持って仕事場に行っているはずだ。

 僕はすぐに今朝切り抜いた新聞記事を確認した。やはり、かなえちゃんは昨日行方不明になった札幌の小島香奈絵ちゃんだった。公園の詳しい場所も載っていた。僕はそれを美織に見せた。

「これって、かなえちゃんのことだよ」

「僕もそう思う。だからこれから幼なじみに電話して迷い玉を探してもらう。駄目なら僕が札幌に戻って探してくる。時間の勝負だ」

 それから僕はトオルに電話をかけた。トオルはこれから部活に行く所だった。

「おー亮太か。まだ釧路なんだろ?」

「うん釧路だ。トオル大事な話があるんだ。力を貸して欲しい」

「何かあったのか?……どうすればいい?急ぎか?」

「急ぎだ。重要なことなんだ、メモ取れるか?」

「わかった。ちょっと待ってくれ。……いいぞ」

「いますぐ行ってもらいたいところがある。住所を言う」

 僕は住所を伝えて、トオルはメモしてくれた

「そこに公園があると思う。向いには神社があるはずだ」

「この住所なら豊平のたぶんあそこだ。そこなら知ってる」

「よかった。その神社に狛犬の石像があるはずだ、一対だけかどうかもわからない。狛犬の後ろには石があって、その下にビー玉のようなガラス玉が隠されているはずなんだ。それを見つけて欲しい」

「狛犬の裏の石の下にビー玉だな。大丈夫だ」

「もし見つかったら、一番速い便でそれをおじいちゃんの家へ送って欲しい。速達か宅急便か。それで、見つかっても見つからなくても三時に電話で連絡が欲しい。結果次第では僕が札幌に戻る」

「わかった、そっちの連絡先を言ってくれ」

 僕はおじいちゃんの家の住所、山科の姓、電話番号を伝えた。

「それと、一人では行かないで欲しい。できれば剣道部の誰かと一緒がいい」

「それなら大輔をつれていく。こういう時は頼りになるし腕も立つ」

「大輔なら安心だ。すまないがよろしく頼む」

「任せとけ。必ず見つけてそっちに送る。じゃ三時に電話する」

「ありがとう。気をつけて」

 僕は電話を切った。

「うまくいきそう?」と美織は訊いてきた。

「今のところは。……トオルは誰よりも頭が切れるし、運動能力も高い。顔もいい。よくモテる。きっと見つけてくれると思う」

「顔は関係ないと思うけど……。でもなんかすごい人ね。今度会ってみたいな。亮くんの幼なじみだなんて気になる」

「これからいつでも会えるさ」

「ねえまだ時間あるしお昼食べに行かない?ファーストフードだけどすぐそこの大きな道路にドライブスルーのお店できたんだ」

「もちろん」

 僕達はチーズバーガーセットを二つ頼んで、隣り合って座れる席についた。

「やっと落ちついた気がするよ。お腹も空いた」と僕は言った。

「そうね、朝からドタバタ。私も疲れたわ」と美織は言って腕を上げて背伸びした。胸の膨らみが際だつブラウスからは一段と形の良さそうな胸が浮き出ていた。

「あの、ずっと言いそびれてたけど、そのブラウスよく似合ってるよ」

「え?本当?嬉しい。……あー、亮くんなんかイヤラシイ目してる」

「そんなことない。決して。うん、よく似合ってる」

「もう!……まあでも昨日も言ったけど十七歳の男子ですものね。普通のことよね」

「そう言ってくれるとありがたい」と僕は照れながら言った。

 しばらくすると店員が注文した品を運んできた。

 僕はチーズバーガーを手に取り、美織はフライドポテトを手に取って食べ始めた。

「それにしても一気に色々わかったわね、あそこのこと。どこまで信じていいのかはわからないけど……。亮くんは信じられる?」

「正直ひどく混乱はしている。でも確かに起こった出来事だと認識はしている。そして、今こうして二人が無事でいることも」

「そうよね。私も橋の上で頭の中に見えたこと、おばあちゃんと話したことは確かよ。亮くんはあの時お母さんって叫んでいたけど……」

「母さんのことは気にしないでいいよ。僕も覚悟はしていたから大丈夫。今はかなえちゃんを助けなきゃ」

「うん。……でも不思議ね。この世界って何が真実なのかしら。亮くんが釧路に来てまだ三日なのにいろんな事が起こってる。……私さっきお父さんの記憶が見えちゃったんだ。あんまり記憶になかったんだけどね。なんだか泣けちゃった。亮くんは知りたいことわかった?」

「欠落していた記憶は全部補填できた。それぞれがなぜそうなったかという理由はもちろんわからない。なぜ母さんがあそこにいたか、とかね。でも何があったかは全部見えた」

「よかった。……結局あの日はあそこで何があったの?」

「今日のかなえちゃんと一緒だよ。僕は美織とキスをしたあと、念の世界の扉を開けてしまった。喜びの感情でね。そして吸い寄せられるように理の門へ入ってしまいあの橋に踏み込んでしまう。向こう岸まで渡らせないようにしてくれたのが母さんだよ。ちょうど今日のかなえちゃんのあたりでね。斉藤さんも迷い玉を持って追いかけて来てくれていた。今日の位置でずっと呼びかけていた。でも僕は帰りたくなかった。ずっと会いたかった母さんに会えたんだからね。それで次の日もずっと母さんと一緒だった。ところが背の高い若い男性が突然現れて僕は斉藤さんの方へ連れて行かれた。今日の僕達がかなえちゃんにそうしたように。あとは斉藤さんから迷い玉をもらって外に出て、それから眠っているところをおじいちゃんに発見される……」

「そっかあ。その若い男の人って誰なんだろう。気になるね」

「わからない。それと気になると言えば、母さんはその時橋の途中まで来てくれていた。でも今日は橋に入れず向こう岸にいた。斉藤さんが橋に入れないのと同じようにね」

「わからないことだらけね」

 美織はフライドポテトばかり食べてチーズバーガーにはあまり口をつけていなかった。僕はコーラを一気に半分ほど飲んだ。

「斉藤さんの話を信じるなら、世界は色々存在する……実体の世界、あの世の世界、念の世界、夢の世界……たぶん他にもまだ。それらは密接につながり、重なり、行き交う……。僕らはその境界線にいたようなもんだ。僕らがこちら側の人間である以上この実体の世界にいるべきだ。むやみやたらに境界線に身を置くのは危険な事だと思う。だから全てを知ろうとすることは危険なことだよ。僕達はちっぽけな存在に過ぎない」

「そうね……。私は斉藤さんを信じるわ。こんなこと誰も信じてくれないと思うけど、今日亮くんと体験したことは紛れもなく現実よ。夢の中の出来事じゃないわ。それだけは自信を持って言える」

 美織はそう言ってまたフライドポテトを食べた。

「ねえこれ残しそうだから半分食べる?口つけたけど」

 美織はチーズバーガーを僕にくれて、僕はほとんど手をつけていなかったフライドポテトをあげた。

「ありがとうフライドポテト大好き」と美織は言って喜んだ。

「太るよ」

「太らないもん!普段は小食だし。私……胸とお尻は少しは大きくなったけど背だけが全然伸びないのよね。きっとお母さんからの遺伝なのよ。……亮くんは背も高くなったし、筋肉もついて、それに斉藤さんと話している姿はすごく大人に見えたな。冷静で頭の回転速い人って素敵よね。私なんか単細胞っていうかさ、話の半分も理解してないんじゃないかな。あの人、いや人じゃないんだった。念だっけ?こういうのってオカルトって言うんでしょ?子供の頃ブームがあったよね。……あー私ったらまた一人で喋ってる」

「いいよ楽しいから。今に始まった事じゃないし」

「もう。……でもねひとつ納得したんだ。ほら、初めての生理の、ね」

「生理と射精」

「そんなにはっきり言わないでよ。恥ずかしいから。……まあいいわ。あれって、子供の秘められた全パワーが感情に出たことで念の世界を開いたわけでしょ。出し切ったわけよねきっと。だからあの瞬間に子供じゃなくなったんだと思うの。心も肉体も。それで大人のスイッチが入ったのよ。目覚めよ。初めての生理と射精よ」

「なるほど。きちんと結びついてる。美織すごいよ!」

「えへへ」

 美織の言うことは本当に辻褄が合っていた。きっとそうじゃないかと僕も思う。かなえちゃんも何かの強い感情を放って扉を開けてしまった。そして門番から迷い玉を貰うが、男子にそれを取られそうになったので石の下に隠し、自分は理の門に逃げ込んだ。でも僕の作戦がうまく行けばかなえちゃんは元の世界に戻れる。トオルなら必ず見つけてくれる。信じて待つだけだ。

 僕達は食べ終わってからもしばらく話し続け二時半におじいちゃんの家に戻った。


 トオルから電話が来たのは柱時計が三回鳴り響いた直後だった。

「結論から言うと、ビー玉は言われた場所にあった。それを丁寧に梱包して一時半に速達便でそっちに送っている。釧路には明日の午後に届く予定だそうだ」

「ありがとう」と僕はトオルに礼を言った。

「御安いご用だ。ところでこれは行方不明の女の子と何か関係があるのか?公園は警察が調べていて立入禁止だし、神社は道路を挟んでいたから大丈夫だったけど周辺で警察に声を掛けられた。大輔が剣道の大会前の祈願だと言って怪しまれなかったけど」

「何から何まですまない。うまく行けば明日女の子は無事帰宅する。僕達は悪いことは一切してない。今はそれしか言えない」と僕はトオルに言った。

「わかった。うまくといけばいいな。また力になれることがあったら言ってくれ。それじゃな」

「ありがとうまた」と言って僕は電話を切った。

 美織は晩ご飯の用意まで一緒にいて、明日迎えに行くことを約束してから家に戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る