異世界を憂う少年
「……ああ……夢か」
随分と鮮明で懐かしくも忌むべき記憶だ。時より思い起こすように何度も夢になって過去が蘇る。あの時の事を思い出す度に心が締め付けられる。
「ったく、朝っぱらから勘弁してくれって……」
俺はアクエリアス・レオン・ライトブルー。
かつて異世界最強と称された戦闘部族ピュアブラッドの生き残りであり、
先祖の記憶を持っており、自分の種族がこれまで歩んできた歴史と技を正式に受け継いでいる。
幼少期に病のせいで先祖の記憶に乗っ取られかけたが今はその心配はない。
普段は競技選手として活躍する傍ら、エンジニアとしてテクノロジーの開発に勤しむ平穏な日常を送っている。
「俺の心とは真逆に今日も快晴で何よりだなおい」
自分の心境とは真逆に空は晴れ模様。皮肉混じるの言葉を朝日に送る。
洗面所に向かい、蛇口をひねり水を出す。水の流れを確かめながら顔に冷たい雫を叩き込んで眠気を吹き飛ばす。自分の水属性魔法で顔を洗えば早いかもしれないが、そんな日常的な場でわざわざ魔法を使用することはない。
鏡に視線を移し、自分の顔、
「もう発病することはないとは思うが……」
この体は、かつて幼少期に病魔に侵されていた。Dウイルスと呼ばれる
完治しているわけではなく、心身を極限まで鍛え続け闇に負けない強い心と精神力を得たことで闇属性魔法として使いこなしている。自分が本来持つ水属性魔法とはかけ離れた恐ろしきパワーではあるが、正しく使えば己の力として行使できることを学んだ。
「俺はお前に負けるつもりはねえ」
自分に投げかけるように言葉を掛ける。そして自室に戻り、窓からマクスウェルシティの街並を眺める。
ああ、俺がいるこの世界は地球ではなく異世界マクスウェルだ。
先住民は戦闘部族マクスウェル人。
今や他種族と手を取り合い文化的思想も取り入れ温和になった彼等と、異世界の管理を行う超巨大複合組織「異世界管理局マクスウェル・コア」によってマクスウェルの政治体制は成り立っており、他の異世界にも政治と法が適応されて秩序を保っている。
だが!
どれだけ法律と政治体制を整えようが、管理異世界の多さに捕らわれ、他の異世界の治安維持と戦争にばかり目を向けた結果、地元マクスウェルの人員と予算配分はかなりおざなりなことになっている。
表面上、一見すると平和に見えるこの街も、少し他所に外れるだけで白昼堂々自動二輪駆動車による人攫いが行われたり貧困層を虐める子供が存在し、犯罪に身を染めた荒くれ者達が夜な夜な暴れている。
地上警察部隊が必死に対応しているがそれでも防ぎきれない。当然だ。優秀な人材は全て上に回され、予算も武装も十分に配分されていない。
積りに積もった不満と不信感は過去に地上と上との争いを引き起こし、レオンはDウイルスを打ち込まれて異形の怪物と化した。
右義手に内蔵された通信機器に着信を知らせるアラーム音が鳴る。義手を耳に当てて通信を聞く。
『よおレオン。お目覚めかい?』
声の主はロディス・ファートレス。
このマクスウェルの王子であり、純血統のマクスウェル人。俺にとって気の置ける親友である。
「なんだ朝っぱらからどうしたロイ王子?」
『どうやらチンピラ達が妙な動きをしているみたいだ。今調査に向かわせている』
「よろしい、では情報が揃い次第皆には基地に集合するよう伝えてくれ」
『ああわかった。じゃあまた後でな』
通信を切って義手に革製の黒い手袋を嵌め、手袋に設置された鍵にロックを掛けて外れないようにする。
「じゃあこの街に蔓延る悪党共のところへ赴くとするか……!!」
俺は、自警団トライブレイブを結成している。
メンバーは一癖も二癖もある亜人達で構成されている。どいつもこいつも強くてブルジョワな奴らばかりだな。もちろん自分達の活動が法に触れることは全員承知している。
だがな、法で対応できない現状があるから俺らみたいな存在が必要なんだよ。これが残酷な現実だ。
光の魔人ウィザードマンレオン 大福介山 @newdeno
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