光の魔人ウィザードマンレオン

大福介山

かつて闇に飲まれた水

 辺り一面が白と黒で配色された無機質な空間。天井に存在する月のような光のみがこの場を静かな不気味さが漂う場所へと演出している。この空間に初めて入った者は、まるで静かな夜の砂漠に来たようだと感じる事だろう。

 しかし、今宵その静寂は激しい轟音と共に打ち砕かれる。轟音が聞こえた場所からは白煙が朦々と立ち込め火花がまるで生き物のようにのたうち回りながら高速で動き、煙を掻き消し2匹の化け物が現れる。


 片方は地獄の業火から現れた赤き者。悪鬼の如き形相と龍を思わせる仮面、まるで燃え盛る様な朱色の外装。巨大な両翼、太く長い尾。鋭利な爪と腰付近まで伸びる赤髪。相手を鎮めようとして操るのは赤色に輝く光の刃。


 もう片方は筋肉と鎧を連想させる不気味な暗黒色の戦闘スーツに体を包む闇の化身。羊髑髏のような狂暴な仮面と恐ろしき形相、腰下部分まで伸びる銀髪。相手を斬り裂こうと操るのは不気味な瞳の装飾と蝙蝠翼の形をした刃を持つ長めの剣。


 赤き者と闇の化身は義兄弟。

 義弟が拉致され、仲間を引き連れ救出に向かうが首謀者により義弟は闇の力を植付けられて義兄と大差ない体格に変貌を遂げ、兄弟で死闘を繰り広げる羽目に陥った。この時彼は、妻が自分の実弟と戦う事にならずに少しだけ安堵する。彼女はその辛さに耐えられないだろう。


「レオン、聞こえているだろう? さあ、兄ちゃんと一緒にお姉ちゃんたちの所に帰ろう、な?」


 愛しい義弟に向けて優しく言葉を掛ける。声が届いてほしい。正気に戻り、自身を蝕む闇の力を振り払ってほしいと願う。


「アァ……セキト……」


「そうだよ、セキト兄ちゃんだ。さあレ」


「笑ワセルナ……貴様等……兄デハナイ……! 人間風情ガ我ガ一族ノ名ヲ語ルナァ!!」


 その願いは虚しく砕け散る。精神まで汚染された弟の前では、彼の呼び掛けは意味を成さなかったのだ。


「くそ! レオンの精神が完全に先祖の記憶に持って行かれてる……!!」


 赤き義兄は暗い夜空へ飛翔し、闇の化身へとなり果てた義弟は猛獣の如き唸り声をあげて後を追う。

 突風と脚が生み出す衝撃だけでもこの場に強力なエネルギーが発生。常人がいたならば、瞬く間に重圧に耐えきれずに失神している。


 義弟を追い着き飛び跳ねた瞬間、義兄は向きを変えて光刃を突き出し斬りかかり、光刃と長剣が激しく斬り合う。次第に互いの攻防がより激しさを増すが、連続で蹴りを入れて後方へと突き飛ばす。

 しかし、とっさに腕を掴まれそのまま勢い良く柱に投げ飛ばされる。防御体勢のまま回転しながら柱に激突。一瞬でひびと共に瓦礫と化す。転がる標的に追いかけてさらに攻撃を仕掛けようとするが、両足で無理矢理止められ、長剣による衝撃波斬撃を許し柱の表面はさらに崩壊する。崩れ落ちた瓦礫は重力に従い落下していくが、高速戦を繰り広げる2人は縛られず、崩れかける柱で高速戦闘が続く。


「イクラ我ガ戦闘部族ピュアブラッドノ血ヲ得タトシテモ、所詮ハ辺境世界ノ人間。純血ニハ勝テヌワァ!!」


「いい加減目を覚ませレオン! それはお前の記憶じゃない。先祖の記憶だ。闇に蝕まれるだけじゃなく前世の記憶にまで飲み込まれちゃダメだ。僕の知ってるお前はそんな弱い子じゃないだろう!?」


「ホザケ人間風情ガ!! 我ハピュアブラッド族ノ王ヴァーサー・ライトブルーナリ!!」


 衝撃と爆風により瓦礫と共に上空へと投げ出されるセキトをレオンは先程のお返しの如く鳴き声を発しながら容赦なく斬りかかるが、上空へと飛翔される。

 だが瞬間移動ともいえる速さで上空背後へと移動。追い打ちで地面へと叩き落とす。回転しながら地面に落下すると、激しい土煙を上げて地面に激突。右手に火属性エネルギーを宿し、光刃と連結して長物へと変化させ、光と炎のエネルギーを投げつける。

 怯むことなく前屈みになり頭部の両脇に生える螺旋状に捻じり回転した大角にエネルギーを溜める。充填は3秒で終わり、角と角との間に赤黒い球状のエネルギーが溜まり、鳴き声と共にビーム大砲の如く赤黒い一線を放つ。

 互いの攻撃はぶつかり凄まじい大爆発を起こし、赤色の爆炎や黒煙が膨らみ、ほんの数秒でキノコ雲を発生させる。爆風に煽られ上空へと移動する義兄。しかし煙で視界が悪く一方的に攻撃を受けた後首根っこを掴まれる。


「ぁぐ……レオン、もう止すんだ……」


「フッハッハッハッ!! 闇ノ力トハ素晴ラシイモノダナ!! ソシテコノ肉体モ大シタ強サダ。再ビピュアブラッド族ノ名ヲ異世界中ニ轟カセテクレルワァ!! ヌゥハッハッハッハッハッハァ!!」


 両眼に、羊の髑髏型仮面の暗い双眸が焼き映る。

 その中で一瞬煌めく赤い瞳の光。一切の感情も読み取れない。こちらに向けてくる明確な殺意だけははっきりと伝わる。何度も義弟の名を叫ぶがその声が届くことは無い。代わりに返ってくるのはもはや人間の声ではない獣の雄叫び。芽生える感情は恐怖ではなく幼き子供をこのような化け物に変えた首謀者に対する激しい怒り。


 投げ飛ばされ先程とは違う柱に叩きつけられめり込む。身動きが取れないセキトに対し容赦なくエネルギー充填を始めるレオン。両角から赤黒く禍々しい球体状光線が発射され柱に直撃、爆音と共に破壊された柱の瓦礫は黒煙を巻き上げる。


 仰向けで転がり出た満身創痍状態の義兄の頭部を踏みつけると、とどめと言わんばかりに先程の赤黒い球体光線を放つ。


 赤い光が辺りを包み込み爆発飛散。辺りは数秒真紅の世界に変わり、ここがテロリストの本拠地である事を忘却させる。


 煙と炎が晴れると、その場に残されたのは鎧の残骸を握るレオン。


「他愛モナイ……残骸ノミヲ残シ塵芥ト化シタカ。所詮ハ紛イ物。我ニ敵ワズ当然ノコトヨ……」


 鎧は頭部から胸、右腕が残った上半身のみで、中身の肉体は焼け落ちたのか存在しなかった。彼の嗅覚に血と肉が焼け焦げた匂いが突き刺さる。暫し沈黙していたがゴミでも扱のように地面へ放り投げる。もはや闇に蝕まれた先祖の記憶が意識を支配していた。鎧の残骸に踵を返しこの場を去ろうとしたが、身動きが取れないことに気付く。地面から伸びる何重もの赤き鎖により縛られていたのだ。


「コレハ、捕縛魔法カ!? イツノ間ニ……!?」


 彼は気付かなかった。あれほどの大爆発の中でセキトが攻撃を食らい大怪我を負いながらもその莫大なエネルギーを吸収し上空へ飛翔し、密かに拘束術を地面に仕掛ていたことを。上から漂う強大な圧力とパワーを感じ取り、即座に視線を上昇させたが手遅れ、眩いほどの丸く赤い巨大な輝きが出来上がっていた。


「破壊魔光線!!」


 放たれた一筋の巨大な赤い光。単純明快、対象を破壊することを目的とした光線の技。その威力は地図を書き換えることになる程強大な力。敵の要塞は光に包まれ跡形も無く崩壊していく。漏れた膨大なエネルギーは減退すること無く周りの土地をも飲み込んでいく。


 そこで映像は途切れ、突如目を覚ました。

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