第3話 銀星印の黒フード戦士/生き延びるのは…

 気が付くと、さびれた工場の中。


 辺りには乱雑に置かれた機械や部品が散らばっている。隣にはダスティが気絶している。


「お目覚めかいおぼっちゃんよ?」


 喋りだけで如何にも素行の悪そうな男の声。そして男に付き従う連中。

 全員顔に麻袋を被って正体を隠しているようだが、やれやれ困ったものだ。


「よく戻ってきたな? だがお前を攫えば金が手に入るだろうからな、悪いな」


 今自分は縛られている。だが、さほど問題ではない。こういうのは馴れた。

 島での訓練といくつもの修羅場でね。まずはこいつらが父さんが言ってた悪党と関係があるか確かめなくては。ダスティも助けないと。


「質の悪い豆共、お前達はこの農場地の悪とブレンドしているのか?」


「テメエ何言ってやがんだ?」


「俺を栽培して粗挽かせようとしても無駄だ。その為に過酷な農場地からドリップして来た」


 この喋り方は相手を苛つかせて冷静な判断を鈍らせるのにも役立つ。

 こちらの喋りに気を取られている隙に、地面を蹴り上げて椅子ごとひっくり返す。椅子は壊れて拘束が解けた。当然意表を突かれた奴らは襲い掛かって来るが、こんなチンピラの喧嘩如きでは相手にならん。数秒と掛からず拳を顎に命中させて気絶させた。


「くそ!? なんなんだよいったい!?」


「過酷な焙煎から得た濃厚さだが、なにか?」


「やっちまえ!!」


「おや豆鉄砲でくるか?」


 ご丁寧に残りの奴らは銃を取り出した。そんなハンドガンやライフルを何処から仕入れてきたんだ?

 やはりこの街では悪党共が蔓延っているらしい。


 相手が撃つ前に駆け出し、銃撃を躱しつつ物陰に隠れる。

 こんなに早く使うことになるとは思わなかったが、致し方ない。

 静かに手を翳した。


 掌に光が集束したかと思うと、一瞬で黒い靄と共に煌びやかな光が放出。


 腕には、漆黒の黒い剣が握られていた。

 この剣は、あの島での修業を終えて手に入れた神秘の武器、聖剣だ。使用者に様々な恩恵をもたらしてくれる。師から資格を授けてもらった事で使えるようになった。


 同時に、身体全体を黒霞が覆い、俺の身体はフード付きの黒コートに包まれる。


 ダークコート。着用した者を闇から守り、周囲に溶け込ませ、フードを被ればその素顔を隠す効果がある。これも師から授けられた物だ。コートを羽織ると、それまで着用していた服はどんな服でも黒ずくめの服に変換される。ジーンズなら黒パンツ、スニーカーは黒ブーツか黒靴にな。黒い手袋も生成される。


 背中には、特製の銀星印が刺繍してある。この身なりと合わせ、スター・バックスと言ったところだ。


「な、なんだ!? アイツどこ行きやがった!?」


 見えない敵は倒せない。

 狼狽えている隙に、剣に念じて、より使いやすい形に変化させる。弓形態だ。

 剣は靄に包まれると、一瞬でその形を弓に変える。


 こちらの姿を求めて銃弾を無駄使いしている奴らに、弓の弦を引いて矢を放つ。

 光の弦を引けば、自動的に矢が生成される何とも不思議な仕掛け。

 放った矢は正確に男達を射抜いて仕留めた。


 僅か数秒で片が付いた。呆気ないものだ


 しかし、リーダー格の男は逃げ出したので、直ぐに後を追う。


「くそ、何だっていうんだ!?」


「動くな、当たらんだろ?」


 男の背を射抜いた。呻き声を上げた後に転げ落ちて気絶した。


「これで良しとしよう……」


 後は警察に任せればいい。急いでダスティの様子を確認。少しだけ呻き声を上げているが怪我も無く無事だ。攫った奴らは撃退したものの、一応攫われた身なので誤魔化さないといけないな。


「……ぅぅっ、んあ? バークス? 俺達どうしたんだ?」


「どうやら、金の豆を狙った質の悪い豆共に焙煎される寸前だったようだ」


「もしかして俺ら拉致られたのかい? でも……」


「救いの豆が現れた。それで俺達は平和な農場地に変えれるようだ」


「救いの豆って……誰が助けてくれたんだ?」


「フードを被った黒豆、ブラックコーヒーだね。豆を弦で弾いて炒る男だった」


 わけがわからず困惑しているダスティ。俺はポケットに忍ばせていたコーヒー缶を開けて一飲み。ダスティにも差し出して落ち着かせ、その名を口にすることにした。


「銀星印のスター・バックス……」


――――……――――……――――……――――……――――……――――……

【ビースト・オブ・キングダム領地】


「魔法だって……!? そんな、信じられない!!」


 目の前で起こったことが信じられなかった。

 だって白魔法だよ白魔法!?

 しかも……こんな猫が使うなんてどうなんだ?


 猫が白魔法を使うから白猫魔導師か? いやそんなことはどうでもいい。

 あまりにも唐突過ぎて、色んなことがいっぺんに降りかかり頭が追いつかない。


「君が信じられないのも無理はないが、この世界は非常識なことばかりだ。そんな調子ではこの先どんな予想外な出来事が起こっても対処できん」


「そう言われても……アナタとこうやって流暢に会話をしているのだって受け入れきれてないのに」


「まあ時期に馴れるさ。それよりもバークスくん。きみはこれからどうやって生き抜くか考えた方が賢明だ。なにしろ、こんな未開の地へ迷い込んだのだからね」


 王様はこちらを案ずるかのように覗きこむ。円らな瞳が心配そうにしている。


「ここから帰してくれるんじゃないのか?」


「いや、そうしたいのは山々なんだが、ここは特殊な場所で、簡単に君の世界と行き来できる場所ではないんだ。さっきも言っただろう? 君は偶然結界を潜り抜けてここまでたどり着いたんだ。それに私達は皆獣人だ。人間の世界へ行くのも一苦労なんだ」


 直ぐには帰れない。それが現実。

 この島から元の場所へ帰るのも容易くは無いのは察しが付いた。

 そもそも海で漂流し続けて辿り着いた場所だ。


「それでも俺は……今すぐに帰りたいです。家族の所へ。父さんから託されたんです。使命も命も」


 懐から、銀星印の手帳を取り出す。中には、倒すべき者達が記されている。


「だが、今の君ではその使命を全うすることは出来ない。君はあまりにも世間知らずで弱い存在だ」


 図星だ。確かに父さんから使命を託されて助かった命とはいえ、俺は特別なにか武道や武器の使い方を習ったわけでもないし、身体も鍛えてない。


「そこで提案だバークスくん」


 王様は柔らかい肉球を俺に差し伸べる。思わず触りたくなる衝動をこらえて彼の表情を見る。


「この島で鍛える気はないか? 見たところ、案外君は鍛えれば化けるかもしれんタイプだ」

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異世界管理局~スター・バックス捜査官の捜査録~ 大福介山 @newdeno

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