最終話 嘘つき



 * * *



「ハルカ、私と結婚して。今すぐに」




 また一つ、嘘をついた。


 ハリウッドの話は、オレが考えたことだった。

 以前インタビューを受けたハリウッドの関係者にわざとみちるさんの映像を見せた。

 全てが実力で来たオファー、というわけではない。


 きっかけはオレが作った。

 これ以上みちるさんに自信を失って欲しくなかったから。




 でもまさか、プロポーズされるとは思ってもいなかった。



(まったく……いつもこの人はオレの予想を超えて来るな)





「結婚って、あんたたちねぇ……」


 運転しながら話を聞いていたユキ姐さんは、急ブレーキで、車を路肩に停め、呆れ顔で後部座席のオレたちの方を見る。



「みちる、あなたね、そうやって思いついたまんま行動しないの!ちゃんと考えてから、ちゃんとした場所でしなさい!!」



「ちゃんと考えたわ!私、欲しいものは全部手に入れなきゃ気が済まないの!!思いついたら即行動!!それが栗原みちるよ!!!」


 完全に吹っ切れたみたいで、みちるさんの表情は、キラキラと輝いていた。




 というか、もう考えるのが嫌になったみたいで、おかしなテンションになっている。




「日本一、いや世界一の女優になって、ハルカの人気なんて軽ーく超えてみせるんだから!!だから、今すぐ役所に行こう!!」


「待って!理由になってない!!落ち着きなさい、みちる!!だからじゃない!!!」



 ユキ姐さんは必死でみちるさんを説得しようとしているけど、みちるさんは全然聞いてなかった。



 そのやりとりが何だか面白くて、オレはずっと笑ってた。





 * * *


「ハルカ、私と結婚して。今すぐに」



 ハルカはすごく驚いた顔で、一瞬固まったけど、すぐに笑い出した。


「みちる、あなたね、そうやって思いついたまんま行動しないの!ちゃんと考えてから、ちゃんとした場所でしなさい!!」


 ユキ姐さんが何か言ってるけど、関係ない。


「日本一、いや世界一の女優になって、ハルカの人気なんて軽ーく超えてみせるんだから!!だから、今すぐ役所に行こう!!」



 思い立ったら、後先考えずに行動してしまうのは、私の悪いところだって自覚はあるの。


 あの日、私の居場所を全部奪ったて、逆恨みしてハルカを陥れようとした時もそうだった。




 今だってそう。


 考えてから行動するなんて、私には向いてないんだよ。



 もうこれ以上、自分に嘘をつくのはやめよう。





「わかりました。みちるさん、結婚しましょう」


「え、ちょっと、ハルカ!?」


「ということで、ユキ姐さん、市役所までお願いします」


「お願いします!!」


「はぁ!?あんた達、今何時だと————」


「「お願いします!!」」


「もう!このバカども!!」



 ユキ姐さんは文句を言いつつも、また車を出してくれた。





「あ、でもね、みちるさん。実は一つ問題があって」



「え、なに?ハルカ」


「オレも、ハリウッド行くんです。ハリウッド」


「え!?嘘でしょ!?」



(話の流れ的に、行くの私一人じゃないの!?)



 ハルカはクスクス笑って、驚きすぎて動きが止まってしまった私の頬を軽くつねった。



「嘘です。」





 やっぱり、ハルカは嘘つきだ————








—— END ——





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