第44話 美少女→国民的アイドル



 会見から2ヶ月が過ぎて、オレは美少女アイドルだったハルカとは全然ちがう曲調で復帰した。


 今まで、作詞作曲は全部日比野社長が手がけていて、全面的にプロデュースされていたが、この曲で初めて、自分の意見が反映されるものとなった。


 2ヶ月休んだ分、パフォーマンスのクオリティーが上がっていて、自分でも驚くぐらいだった。


 一方で、プライベートでのみちるさんとのデートの様子は、もはや国民全員が暖かい目で見守ってくれていて、美少女アイドルから、名実ともに国民的アイドルへと変貌を遂げている。


 借金返済に充てていたお金も、マミコさんから全額返されたから、オレは地位も名誉もお金も恋人も全部手に入れて、ものすごく幸せだった。



 こんな充実した日々が来るなんて————



 だけど、最近、みちるさんに元気がない。




「どうしたの?みちるさん?ドラマの撮影が大変なの?」


 セキュリティーのことを考えて、今だに事務所内の宿舎で暮らしてはいるけど、みちるさんは隣の部屋に最近引っ越していた。



「ううん、そんな事はないよ。演技するのは楽しいし、共演のみんなも優しいし」


 オレの復帰と同時期に、みちるさんはアイドルを辞めると宣言して、女優業に邁進している。


 でも、会うたびに、何か悩んでいるような気がしてならなかった。





 * * *



「なんだっけ?あの、ほら、ハルカの彼女」

「あー、えーと、栗原みちる?だっけ?」

「そうそれ。今度あの子と共演するんだけどさ、主演らしいんだよね」

「マジで?でもそれって、完全に事務所の力とハルカの彼女って知名度のおかげじゃない?大した事ない女なのにさー」




 テレビ局の廊下で、そんな会話が聞こえて来た。


 オレは彼女たちに気づかれる前に、物陰に隠れる。



(誰だよ、みちるさんの悪口言ってるやつは……最低だな。あんなに演技の上手い人はいないのに……)



 それは今割と人気が出て来ている若手女優二人と、もう一人はそこそこ人気のあるタレントだった。


「今まで大した役もやってこなかったくせに、アイドルやめて女優業に専念した途端に大役ばっかりじゃない? たいして才能もないくせに、私より先に主演とか、マジでムカつくんだけど」

「仕方ないでしょ。なんたって、国民的アイドルの女なんだし、事務所もあの大手よ?」

「ハルカの人気に乗っかってさー。こっちは実力で勝負してるってのにねー」



(ああ、そうか。きっと、みちるさんが元気ないの、このせいだ)



 みちるさんはいつも突発できで、行動や発言がいきなりで、一人で抱え込んで泣き出したりするけど、たまに自分を押し殺して、嘘をつく事がある。


 でも、その嘘はいつだって、オレに心配をかけない為のものだった。




 それに、悔しかった。


 今みちるさんに来ている仕事のオファーは、確かにオレの影響があるかもしれないけど、決して、実力がないわけじゃない。


 オレのせいで、栗原みちるは女優として、世間から認められていないんだ————











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