第39話 新しいスタート
————オレは今、何を見せられているのだろうか。
突然行方をくらませたみちるさんを連れ戻しに、北海道まで来て、やっと捕まえて安心したオレを待っていたのは、女装タレントのマミコさんで……しかも、そのマミコさんが、死んだはずのオレの父親で………
そして、さらには、今このみちるさんの親戚の家のリビングのテレビ画面に映っているのは、何故か伝説のヴィジュアル系バンド・
「これが、まだ男だった時のアタシよ」
センターで堂々と歌い、ファンを魅了する派手な金髪のボーカルを指差して、マミコさんは少し恥ずかしそうに言った。
「ちなみにドラムは、アナタ達の事務所の社長、日比野さんよ」
「えっ!?社長もですか!?」
一緒に見ていたみちるさんは、驚いて聞き返していたが、オレは社長が昔バンドをやってた事は知っていたし、この映像も何度か見たことがあったから、驚きはしなかった。
でも、単純に、このボーカルカッコいいと、少し憧れてた人がまさかの自分の父親で、しかも、それが今この人なのかと思うと……
衝撃が強すぎて、何も言えない。
社長はオレがこの人の息子だと知っていて、わざと見せたのだろうか?
「過去のことは隠して、マミコとして活動しているから、日比野さんには会わないように避けてきたのだけど、アタシのせいでこんな事態になって、さすがにそうはいかないじゃない? 日比野さんは全然気がついてなかったから、アタシを見て驚いて、言ったのよ————“お前には、息子がいる”って」
マミコさんは、無言で話を聞いていたオレの手を取って、じっと顔を見る。
「何も知らなくて、とても無責任な父親で、本当にごめんなさい。これからは、アナタはもう、ハルカとして、女の子としてアイドルを続けなくて構わないし、アタシがそうさせないわ!……だから、戻ってきて————」
そして————
「アナタは真泉遙として、新しくスタートするのよ!」
そう言って、分厚い紙の束をオレに渡した。
「アナタの復帰を願うファンからの嘆願書の一部よ。事務所にもネット上にも、アナタのファンから、復帰を望む声であふれているの。アナタが男だって知っても、それでも応援してくれるファンはたくさんいるのよ————性別なんて、ただの記号に過ぎないわ」
ずっと、誰からの連絡も絶って、みちるさんだけを探してここまで来た。
嘘をついていたオレを、世間は許してはくれないと思っていた。
もうあのステージの上に立つことはできないだろうと。
それでも、オレはみちるさんを選んだ。
だから、SNSもテレビも見ないでいたけど、まさかこんな————
「遙、東京に戻って。」
「みちるさん……」
「こんなにもたくさんの人が、待ってるんだよ?やっぱり、遙は、ちゃんといるべき場所に戻らなきゃ……」
「でも、オレはみちるさんと————」
「————私も一緒に戻るから」
「え?」
「新しいスタート、私も手伝うよ」
みちるさんは笑顔でそう言うと、帰るための荷物をまとめ始めた。
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