第37話 嫌われる勇気
真っ黒なパーカーと、ボサボサの髪。
ハルカとしての姿ではなく、真泉 遙として、彼はそこにいた。
「手を放したら危ないですよ」
リードを私に握らせると、遙はコタロウを地面に降ろして、頭を撫でながらそう言った。
「なんで、ここに?」
「それはこっちのセリフです。どうして何も言わずにいなくなったんですか?」
「どうしてって、それは……」
私といるせいで、遙がハルカとして歌う場所を奪ってしまうきっかけになってしまうから————
男である事がバレてしまったら、みんなから愛され、国民的美少女アイドルとまで呼ばれているハルカが、嘘をついていたことで嫌われてしまうのが、私には耐えられなかった。
この半年、一緒に過ごしてきて、ハルカという存在が、どんなに日本の芸能界にとって必要な存在で、そこにいるべき才能を持っていることを知った。
ハルカはみんなのハルカだって事が、あの会見後の影響を見れば、よりわかる。
だからこそ、私は遙の元に戻ることはできなかった。
「……私には、みんなからハルカを奪う勇気はないから」
ハルカが芸能界から引退したら、きっと私は国民のみんなから恨まれるだろう。
「そんな事で、俺から逃げたんですか?」
「そんな事って…!私のせいで、こんな事になったのに……!!私は、みんなから————」
色んな感情が、複雑に私の中で溢れ出して、泣き出しそうだった。
ハルカの居場所を守りたかった。
ハルカの歌は、宝物のように綺麗で、美して、誰もが魅了されるものだし、何よりも、歌っているハルカ自身が、すごく幸せそうで、綺麗だった。
そんな姿を見る事が嫌だった。
好きな人から、好きなものを奪う事は、したくなかった。
だからこそ、私はハルカから逃げた。
好きだからこそ、私が遙を諦めなければならないと、わかっていたから。
いっその事、遙が私を嫌いになってはくれないかと、そんなずるい事さえ考えた。
嫌われる勇気もないくせに————
「みんなって誰ですか? 誰の事を言ってるんですか? オレのファン一人一人から? それともこの国中の一人一人からですか? そんな不特定で多数な人たちがなんだって言うんですか……————オレが、あなたを好きなだけじゃ、ダメですか?」
遙がそう言って私を抱きしめる。
「オレは、あなたがオレを好きでいてくれるなら、誰に嫌われても構わない。それじゃ、ダメですか?」
ずっと我慢してたのに、その言葉で、涙が一気に溢れでた。
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