第36話 告白
『関係者並びに、今まで、私、ハルカを応援してくれた皆様に、お伝えしなければならない事があります。私、ハルカは——————男です』
全局同時中継された記者会見で、ハルカはいつもの女の子らしい、アイドルらしい服装ではなく、紺色のスーツ姿で、今まで性別を偽って活動してきたことを謝罪した。
それに加え、最近噂になっていた同性愛者であることは完全否定。
恋愛対象は女性であるとと、私とは恋人関係だと赤裸にすべてを告白した。
『栗原みちるさんは、僕が、応援してくれる皆さんに嘘をついている事に悩んでいた時、1番側で支えてくれた人です。そして、僕自身がアイドルになる前から、彼女のファンでした』
私の名前が出て、一緒に会見を観ていた叔母さんは、驚いて何度も私の顔とテレビ画面を交互に見る。
『僕の事を批判するのは構いません。嘘をついてきたのは僕です。でも、栗原みちるさんは何も悪くありません。悪いのは僕です』
記者からの質問にも真摯に答える姿は、堂々としていて、謝罪会見だというのに、ドラマのワンシーンを見ているかのようだった。
『今日を持ちまして、ハルカはアイドルを引退します。本当に申し訳ございませんでした。そして、今まで応援してくれたファンの皆様、ありがとうございました』
ハルカが深く頭を下げていると、会見場の外からハルカのファンと思われる人が涙ながらに叫んだ。
『やめないで!ハルカ!』
『そうだよ!やめないでよ!僕たちは君が男だろうと関係ないよ!!』
『性別なんてどうでもいい!!』
何にもの人が、その場にいた記者達まで、ハルカにやめて欲しくないと言った。
その場にいたみんなが、ハルカのファンだった————
* * *
この記者会見は連日大きく報道されて、ネット上ではハルカの引退を撤回するよう署名運動が行われた。
連日のように事務所に引退撤回を求める電話も来る。
そして、ハルカの性別詐称がスポンサーに迷惑がかかると思われていたけど、ハルカの謝罪後、CMにハルカを起用していた商品は飛ぶように売れ、不買運動なんてまったく起きず、寧ろ売上が伸びて、経済界からも、ハルカの引退を撤回するよう圧力がかかっているらしい。
そんな中、肝心のハルカは、日本がそんな事になっているとは知らず、報道によると海外へ行ってしまったらしい————
会見から数日経っても、未だ北海道にいる私には、これくらいの事しかわからなかった。
「私はどうしたらいいんだろうね……コタロウ」
(東京に戻って、引退を撤回するように私もハルカに言うべきなのかな……)
いつかはバレる事だったにしても、そのいつかを早めてしまったのは、私だという責任がある。
あれこれと悩みながら、すっかり仲良しになったコタロウに話しかけ、夕陽の沈む中、散歩道を歩いた。
初めて散歩した時は、ちゃんとコタロウの歩く通りに進まなかったけど、今はもう慣れたもので、朝と夕方の2回同じコースを歩いてる。
田舎道を抜けて、商店街まで出てきた時、道路を挟んで反対側に、黒いパーカーの人がいるのが見えて、また、ハルカの事を思い出した。
「ハルカはどこに行ったんだろうね……コタロウ」
涙で滲んで、前がよく見えない。
急に立ち止まる私に、痺れを切らしたコタロウに引っ張られて、私はリードを放してしまった。
「あっ!コタロウ、待って!」
コタロウは道路に飛び出し、運悪くそこに車が————
「————危ないじゃないですか。ダメですよ、みちるさん。手を放したら」
————通る寸前で、黒いパーカーの人がコタロウを抱き抱えて、助けてくれた。
「………ハルカ?」
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