第33話 不安
気のせいではない。
確実に誰かが、中の様子を見ていた。
バレてしまったかもしれない。
先のことを考えると、最悪の事態を想像してしまって、不安と恐怖に身体が震えしまう。
それでも、時間は待ってはくれず、撮影の時間が来てしまった。
「大丈夫、みちるさん、切り替えて。」
セット裏の誰も見ていないところで、ハルカはそう言って、私の手を握ってくれた。
ひとつ深呼吸をして、カメラの前へ。
なんとか平常心を保ちながら、観覧席のお客さん達の前でいつものように、アイドルとしてのパフォーマンスを終える事ができた。
(よかった……終わった)
セット裏に戻ると、私と入れ違いで、今度はハルカがカメラ前へ。
カメラの前に立つと、ハルカはより一層輝いている。
歌も、ダンスも、何もかもが本当にすごくて、綺麗で……
セット裏から見えた、観覧席のお客さんは、私の時とは全然違う嬉しそうな表情で、幸せそう。
もしも、私のせいでハルカの秘密がバレてしまったら、この人達から、この幸せを奪ってしまうことになるのだろうか————
「ねぇ、栗原ちゃん……」
「あ、マミコさん!お疲れ様です」
ハルカのパフォーマンスを観ながら、考え込んでいると、マミコさんに声をかけられた。
「やっぱりハルカちゃん、いいわね。上手だし、歌詞の表現力もすばらしいわ」
本業が歌手であるマミコさんも、ハルカをとても評価している。
「やっぱり、恋をしていると、違うわよね。感情に幅がでるわねー」
「えっ!?」
「ごめんなさいね。立ち聞きするつもりはなかったんだけど————」
(まさか……さっきの……人影って……)
「————アンタ達、付き合ってるのよね? アタシらみたいな同性愛者はまだまだ、世間からは冷たい目で見られる事も多いから、バレないように気をつけなさいよ?」
「………はい……」
(マミコさんだったのか……)
マミコさんは、誰にも言わないから、困ったことがあったら、いつでも相談にのってくれると約束してくれたけど、さすがに言えなかった。
付き合ってはいますが、女同士では、ないのです————
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