第32話 綻び





 次の日、スペシャル番組の撮影で、ハルカと私は、また共演する事になった。



 今回は出演者が多いから、私は他のアーティストと同じ大きな楽屋だったけど、ハルカは個室だった。



 ある程度以上の地位を気づいていないと、こういうときは仕方がない。



 他のアーティストと話せるから、交流にもなるし、楽しいと言えば楽しい。



 一応、男女で分かれている為、待ち時間の話題のほとんどは、恋愛トークがほとんどだった。



「栗原さんは、彼氏とかいるんですかー?」



「え?私?」



 もちろん、いないと答えるのが正解だけど、昨日のハルカの様子が頭をよぎって、すぐに答えることができなかった。



「あーいるんだぁ!やっぱりアイドルだって、恋愛しますよねー」



「えーどんな人なんですかー?」


「同業の人ですか?俳優さんとかー?」



 数名の私より若いか同じくらいのグループアイドルの子たちに、質問攻めにあってしまい困っていると、



「みちるさん、相談があるんですけど、今いいですか?」



 ハルカが楽屋に入って来て、営業スマイルでこちらに向かって来た。




「きゃー!ハルカさん!その衣装、今日のですか?めっちゃ可愛い」



 すでにステージ衣装に着替えたいたハルカは、今日もどこからどう見ても、国民的美少女アイドル過ぎて眩しいくらいだった。



 ニコニコと笑顔を振りまきながら、ハルカは私の手を握る。



「ちょっと、みちるさん借りますね」




 そう言って、強引に私の手を引いて、自分の楽屋へ連れて行かれた。




 ————ガチャ




 ハルカは、ドアに内側から鍵をかけてから、ぎゅっと、私を抱きしめる。





「ハルカどうしたの?昨日から、なんか変だよ?」



 いつもなら、仕事中にこんな事はしない。


 最新の注意を払っているから、宿舎以外では完全にハルカは国民的美少女アイドルとしての振る舞いは完璧で、こんな事は初めてだった。




「充電だよ。充電。みちるさんが足りない……」



「もう、昨日も、今朝だってあんなに一緒にいたのに」



「足りないよ、本当は今日一日中ずっと一緒にいたかったんだから」




 昨日から、ハルカは少しわがままで、私に甘えてくる。



 それがもう、可愛くて仕方がない。




「もう、しょうがないなぁ……」




 ハルカの肩越しに、誰かと目があった気がした。




「えっ!?」




「え?何?どうしたのみちるさん?」



 鍵を閉めた楽屋のドア。



 一部すりガラスになっている部分から、人影が見える。




「後ろ、ドアの前、誰か……いる」




「えっ?」




 ハルカが振り向くと、その影はサッと逃げていった。




(誰かに、見られた?いや、すりガラスだし————聞かれた?)





 すぐにドアを開けたけど、もうそこにいたのが誰なのかわからない。





(————やばい……どうしよう)













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