第30話 暴走する感情


「あれ?ちょっと、ハルカちゃん?聞いてる?」



「へっ!?あ、はい、聞いてますよ……!」


「もう、急に動かなくなったから、びっくりしたじゃないのぉ!」



 オレが衝撃を受けて、固まってしまっている間にも、マミコさんのトークは止まらない。



「それでねぇ、有村もほら、例の女と別れて傷心状態みたいだから、ちょうどああいう正反対の明るい子の方が合うんじゃないかって……」



 確かに、有村さんは長年付き合ってた女優さんと別れたという報道があった。


 オレがデビューしてすぐくらいだった気がするから、多分そろそろ1年くらい経つ。


 だからって、みちるさんと?



 何を言ってるんだ……まったく!!



「栗原ちゃんも、有村となら、今より高感度が上がると思うのよねー!今時、アイドルだからって恋愛しちゃいけないなんて、時代錯誤だしーあの子、今は男いないって言ってたから、ちょうどいいじゃない?」



(全然良くない!!)


「そうですねー、ちょっと歳の差がある気がしますけど……」



 全く賛同できないけど、自分が彼氏だなんて言えるわけもなく、なんとか営業スマイルを作って、笑ってごまかすしかなかった。






 そして、それと同じ日の夜。




 今度は別の局で、その例の芸人、有村さんと仕事があった。



 何度か番組で出演した事もあるし、有村さん自身はとてもいい人なのは知っている。


 だけど、収録中はマミコさんの話が頭から離れなくて、有村さんは何も悪くないだろうけど、事あるごとに睨みつけてしまってる自分がいた。




 有村さんはオレの視線に気づいたようで、収録後に声をかけられた。



「ハルカちゃん、どうしたん?なんか僕のことずっと見てなかった?」




「え、なんのことですか?見てませんよ?」



 これもまた営業スマイルでごまかした。




「そう?ならいいんやけど……あ、ハルカちゃんって、栗原みちるちゃんと同じ事務所で仲良しなんだってな?」



「え、はい…そうですけど?」



 無理矢理貼り付けた笑顔が、引きつる。



(なんでこの場で、有村さんからみちるさんの話題が?)



「昨日はホンマに悪かったって、伝えてくれへんかな?」



「え?」



(おい、何をしたんだ、有村てめぇ————)




 営業スマイルで乗り切るのが難しいほど、負の感情が込み上げて仕方がなかった————






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