第27話 せめて今だけは



 * * *




「もう、今日はエイプリルフールじゃないよ?」



 宿舎に戻ると、私と同じように、何も聞かされていなかったハルカは、とても驚いていた。


 ハルカ本人は、まったくティザー映像は見ていなくて、なんで、自分とアキラが熱愛報道されてるのか、理解できていなかったらしい。




「何がどうなってるのか、まったくわからないままだったけど、まさか、みちるさんとコラボする事になるなんて、思ってなかったな……」


「私もびっくりしたけど、しばらく一緒に音楽番組にも出ることになるみたい」




 これからは、ハルカと仕事でももっと会う事ができる。



 そういう期待もあったけど、何よりもまた人前に立つことができることが嬉しかった。




 もともとはアイドルになりたかったわけじゃないけど、イベントやライブの時に感じたあの感覚は何物にも変えられない、かけがえのないものだと、今だからこそ思う。


 鳴り止まない拍手や声援に応えたい。


 実力はまだまだだけど、これからも頑張って、応えられる自分でありたい。



「私、今度こそ頑張って、いつかハルカを追い抜いて見せるから!」


 うれしくて、ついそんな事を言ってしまった。



「そうですね。みちるさんなら、できるよ!まぁ、オレも時期が来るまでは、負けるつもりはないけどね」



「時期?」



「うん、どういう形になるかわからないけど、いつか本当のことを応援してくれる人たちに話す日が来たら、その時は、もう、芸能界にはいられないから————」



 ハルカの夢は、アイドルじゃくて、歌手になることだった。

 親の残した借金のせいで、美少女アイドルになってしまったけど、ハルカに歌の才能があるのは、全国民が知っている。


 いつかくるその日は、ハルカから歌を奪ってしまうかもしれない。


 だからこそ、せめて今だけは



「————その日までは、全力で国民的アイドルを演じ続けるよ」




 その嘘を、貫き通させて欲しい————




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