第26話 戦略的プロモーション



 事の経緯を聞きに社長へ行った。






 4月1日に先行公開された、ハルカの新曲ティザー映像。


 数秒だったけど、私もしっかり映っていて、もちろんメインの相手役となっているアキラも出てる。


 キスシーンも一瞬映った。


 購入者特典でミュージックビデオを短編ドラマ化した映像がつく事。

 さらに、カップリング曲に“feat.栗原みちる”と、私の名前も。



 あの日騒ぎの発端となった写真も含めて、すべてはこの新曲のプロモーションであった……と、言う事にいつの間にかなっていた。



 そのお陰で、私への誹謗中傷はいっきに減り、逆に初めてのコラボ相手が私である事に何かあるのかと、深読みしてるファンもいる。




 社長の名案によって、これを機に、私の新曲も出る事になった。


 それが、どうやら、何も知らずにレコーディングさせられたうちの2曲が、自分のソロ用で、もう一つがハルカの方のカップリング曲になるとの事。




「せっかく知名度が上がって、話題の渦中にいるんだ。これを利用しないでどうする?」


 社長はドヤ顔で私にそう言ったけど、どうも納得ができない部分がある。



「これって、私、売名行為だって、叩かれませんか?」



「きっかけはどうであれ、実力があれば、結果が残るんだ。心配しなくていい。みちる、君はレコーディングした時に何か気づかなかったかい?」



「何か?」



「君は、もう以前の君じゃない。一発屋だなんて、もう誰も言わないだろう。この数ヶ月、君が努力したことを思い出してみるといい」



( ————この数ヶ月で、努力したこと?)




「自分では気づいていないだろうが、歌も演技も、以前より格段に良くなっているんだよ————」


 努力……



 そうだ。

 私は、すべてをハルカに奪われたと思っていた、あの日、本当は自分にが努力していなかった事に気付かされたあの日から、ずっと…ほとんど毎日が宿舎とレッスン場の往復だった。





「————きっかけだけ掴んでは、意味がない。結局は、努力して実力を得た者が、長い間続けていられる世界なんだよ。芸能界ここは」




 嬉しくて涙が出そうだった。




「ありがとう、ございます……」





 今日の社長は、ちゃんと目も笑っている。



「お礼なら、ハルカにするんだな。最初に君を推したのは、ハルカなんだ……」



「え?ハルカが?」



「男である自分が国民的アイドルでいるより、本当にアイドルをやりたい君の方が、ふさわしい……と、言っていたよ」



 初めてハルカが男だと知った日、確かにハルカは自分の性別を公表して、アイドルを辞めようとしていた。



 でも、今ではファンの為に、嘘をつき続けなければならないと、決意して仕事をしている。




 ファンの為に……それは、自分の為ではない。




 ハルカはいつも、他人の為に、自分を犠牲にしているような気がした————



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る