第22話 バレないように
* * *
「ハルカちゃん、今日がキスシーン初めてなんだって? 無理しなくていいから、フリだけでも全然いいからね!」
現場入りしたら、いきなり、ハルカとアキラのキスシーンだった。
監督は、今や国民的アイドルとなったハルカにとても優しい。
テストの段階で、ハルカがぎこちなく感じたようで、そう言っていた。
私からすると、緊張しているというより、明らかに嫌そうに見える。
演技とはいえ、キスしなきゃならない相手が更に男なんだから、当然といえば突然。
2人が放課後の教室で、キスをしているところを、私が目撃するシュチュエーションになっているのだけど、2人とも顔が引きつっている。
「いやーまさか、俺もこの世界入ってそこそこだけど、初めてだわ、こんな苦痛でしかないキスシーンは……」
「それは、こっちのセリフですよ、高良さん」
ハルカは終始、アキラくんと呼ぶ事はなく、ずっと高良さんと呼んでいた。
下の名前で呼び合うような仲ではないのだと、わざとやっている。
引きつった笑顔のまま、本番————
(あ、寸止めだ……)
お互いにちょうど触れない位置で止まってる。
すごい、さすがプロ。
カメラ越しにみたら、十分綺麗な絵面だと思う。
すぐにOKが出て、撮り直しもなくすんなりとおわった。
「では次、栗原さんお願いします————」
(今度は、私とか……)
「それじゃぁ、まずは脚本通りに、栗原ちゃんの方からハルカちゃんにキスする形でお願いしますね!」
まずはテストから。
ハルカの胸ぐらを掴んで、無理やり引き寄せて、キス……という流れ。
(すごい緊張してきた……どうしよう)
キスならもう何度もしてるのに、それ以上の事だって……それでも、それはプライベートの事であって、人前でするだなんて、緊張でしかない。
仕事だと割り切って、絶対に見ている人に変に思われないようにしなきゃならない。
「みちるさん、大丈夫ですよ、頑張ってください」
こっちは緊張してるのに、ハルカは余裕そうだ。
(何よもう…何か、腹立つな———— )
「はい、じゃぁ、行きますよー!テストなんでフリでいいですからね! よーい、アクション!」
ハルカの胸ぐらを掴んで、グッと引き寄せて————
————ちゅっ
私も寸止めしようとしてたのに、ハルカがわざと動いた。
「あ、ごめんなさい……テストでしたね! みちるさんの表情が良かったから、本番かと思いました」
(絶対にわざとだ……わざととぼけてる。嘘つきめ………)
「もう、ハルカちゃんしっかり!じゃぁ、次、本番行きますよー」
この本番だって、カメラの位置的にフリでいい。
なのに、ハルカはまた————
————ちゅっ
(もう、やめてよバカ! 心臓がもたないから!)
唇が触れるたび、心音が早くなる。
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