第20話 決意の夜
高良 輝との共演は、もちろん事前に知っていた。
オレがデビューする少し前に朝ドラに出演して、そのあと人気俳優として映画やドラマに引っ張り凧であることも。
ドラマ自体は忙しすぎて全く見たことがなかったけれど、番宣のポスターとかはテレビ局内で何度か見たことがあったし、顔も名前も認知していた。
だけどまさか、この羨ましいほどの高身長で、さらにはぱっちり二重の人物が、あの、アキラくんなんて、わかるわけがない。
オレの記憶していたアキラくんは、切れ長の一重で、さらにいうと、坊主頭の野球少年だった。
この十数年で、大人になったのだから、顔つきがかわるのは納得するけど、まるで別人すぎる。
「整形、したんだね」
オレが性別を偽っている事と比べたら、大した問題ではないかもしれないが、その一言が決まりになり、アキラくんは明かに動揺している。
「わかってると思うけど、オレが男だって事を誰かに言ったら、その瞬間、全部終わるから、オレもアキラくんも……ね」
「わ、わかった……誰にも言わない」
アキラくんは顔面蒼白のまま頷いた。
それからというもの、スタッフに呼ばれて、話の途中で撮影が再開したが、手を繋いだり、楽しそうに会話するシーンで作った笑顔が不自然でないことを祈りながら、オレたち3人はきっちり台本通りの演技でなんとかその現場を乗り切った。
楽屋へ案内される前までの出来事については、その場にいた関係者全員に両方の事務所から箝口令が敷かれたけど、明日も撮影の続きがこの3人であるし、色々不安な中、今日は解散となった。
そして、みちるさんと一緒に宿舎に戻り、明日撮影の部分を改めて確認すると、台本にはキスシーンがあった。
しかも、みちるさんとアキラくん両方とだ。
(これは、気まずい————)
それに、アキラくんのせいですっかり話が途中になってしまった事がある。
あの最後の日から、オレはずっとみちるさんに会いたくても会えない日々が続いていて、本当は折を見て今日その話をするつもりでいたんだ。
撮影中はそんな暇もなく、やっときたチャンスを邪魔されて、本当に今日は疲れてしまったけど、今日こそちゃんと話さないと、明日がよけいに気まずくなる————
深く深呼吸をしてから、みちるさんの部屋の前に立った。
あんな事をしておいてなんだけど、かなり緊張してる。
どうしたらいいだろう、どう伝えたらいいだろう、色々考えては出した答えを何度も打ち消して、そしてまた結局は同じ答えがでて、そうして繰り返して決めた事。
みちるさんは、オレの出した答えを、受け入れてくれるだろうか————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます