第17話 隣





「———— はい、OK! 一旦休憩入りまーす!」



 事務所がかわって、初めての私の仕事は、ハルカの新曲ミュージックビデオの撮影だった。


 ドラマ仕立ての作品で、主人公のハルカを巡る三角関係。


 ハルカは男からも女からも好意を持たれて、揺れ動く……というストーリーになっている。


 私はその、ハルカに好意を抱く同級生の女の子役だ。



 もともとこの役は同じ事務所に所属してる別の女優さんがやるはずだったけれど、撮影前に怪我をして降板し、急遽私が選ばれた。



 ほとんど準備ができていなかったし、久しぶりの撮影に緊張しながらも、撮影は順調に進んでいる。





「お疲れ様です、みちるさん」


「お、お疲れ様……」



 あの最後の日から、もう1週間が経っていたけけれど、ハルカと会話したのは、今日が初めてだった。


 目を覚ました時には、もうハルカは仕事に出てしまっていて、同じ宿舎にいても、時間的に会うことがなかった。



 どう接したらいいかわからない。

 あの日の事は、現実ではなかったのではないかと思いながら、何度もハルカを見たけど、ハルカはただニコッと笑うだけ。

 アイドルのハルカとして。




 スタッフが次のシーンの準備をしている間、スタジオの外で待機しているけど、もちろん周りに人は大勢いるから、あの日のことを話せるわけがない。



 話す事があっても、あくまで撮影に関する話だけだった。

 ハルカはなにも言ってこないし、撮影以外で、私に触れることもない。



 隣に座っている今も、何のそぶりも見せないのは、私だけが意識してしまっているだけで、ハルカは違うんだ。



(あぁ、なんか、また泣きそうになってきた……)



「みちるさん、あのさ、聞きたい事が————」


 そんな私の様子に気づいたのだろうか、ハルカが何かを言いかけた時、急に誰かがハルカに駆け寄ってきて————





「ハルちゃん!!!やっと会えた!!!」




 ————呆気にとられている間に、その人はハルカにおもいっきり抱きついた。







(え? この人————)






「会いたかった、本当にずっと、会いたかったんだ!まさか、共演できるなんて、信じられなくて!!」



 反射的に逃げようと立ち上がったハルカだったけど、相手が悪すぎた。




 ハルカより背がかなり高くて、肩幅も広い。


 女子だとしたら高い方だけど、男としてはそんなに高くないハルカの身長では、彼の腕の中にすっぽりと収まってしまった。



「ちょっ……誰ですか!! 放してください!!」


「誰って……俺のこと、覚えてない?」


「覚えてないも何も、そんないきなり————」



 ハルカは、彼の首元を見て、何かに気がついた。



「————…アキラ……くん?」




 そう、ハルカに想いを寄せる転校生の男子生徒役————




( ————俳優の高良たから あきらだ )


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