第14話 始まりの決意
ハルカの実家近くにある商店街には、人影はあまりなく、そのおかけで、帽子と眼鏡だけの軽めな変装であったけど、ハルカに気づく人はいなかった。
悔しいけど、なんの変装もしていない私にも。
ただ、惣菜屋さんのおばさんにだけは、声をかけられたけど、それも、ハルカとしてじゃなくて、遙としてだった。
「いやー久しぶりね、最近顔を見ないからどうしたのかと思ったよ、学校は卒業したのかい?」
「うん、昨日卒業式だったんだよ」
おばさんは、揚げたてのコロッケを私達に渡すと、ニヤニヤと私の顔を見て笑う。
「いやぁ、ハルちゃんもついに……彼女かい?」
「違うよ、先輩なんだ。それより、おばちゃん、このコロッケいくら?」
(勘違いされてるだろうなぁとは、思ったけど、あっさり否定されるのもなんだか複雑だな……)
「お金なんていらないよ、卒業記念だよ。なんだい、違うのかい……」
おばちゃんと少し世間話をして、
「また来るよ、ありがとう」
そう言ったハルカの顔はどこか悲しそうだった。
商店街の少し奥に入ると、「夜桜」の看板が見えてきた。
昼間だけど、中は薄暗くて、ハルカは電気をつける。
「遙、帰ったのね?」
物音に気がついたのか、奥の居住スペースから出てきた人は、ハルカのお母さんは話には聞いていたけど、とても綺麗で、目元がハルカにそっくりだった。
嬉しそうに息子に駆け寄ると、彼の後ろにいた私を見て、
「あら、彼女?」
惣菜屋のおぼさんと同じことを聞いてきた。
「違うよ。先輩の栗原みちるさん。ほら、一昨年のレコ大新人賞、一緒に見てたの、覚えてない?」
「あら、そうなの? じゃぁ、あの時、遙が………あら、まぁ……」
ハルカのお母さんは何か思い出したようで、クスッと笑って
「一緒に来てくれてありがとう、みちるさん」
私の手を握った。
よくわからないまま、私はカウンター席に座らされる。
「母さん、オレね、暫くここには戻れないと思う」
ハルカは、これから仕事が更に忙しくなる事と、ついてしまっている嘘を、秘密を守る為には、この街に戻る事は出来ないだろうと告げて、さらには
「男として、真泉遙としてじゃなく、ハルカとして生きる事に決めたんだ。最初は借金のせいで始まった嘘だけど、もう引き返すことはできないから————」
そう言って、また悲しそうに笑った。
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