第13話 唯一の癒し


 * * *


 宿舎の間取りは3LDKで、バストイレ別。

 建物全体が芸能事務所の持ち物である為、管理が行き届いていて、共同スペースになっている廊下やエレベーターはもちろん、色んなところに監視カメラがある。


 流石に個人の部屋にまではついていないらしいけど、私が知ってしまったモノは社内でもトップシークレットで、本当にごく一部の限られた人達しか知らない秘密。


 私のせいでバレたなんて、最悪な事態が起きないよう、常に緊張していた。



 社長命令で、外出も制限されている部分があったし、新しく仕事が入るまでは、宿舎とレッスンスタジオの行き来ぐらいで、殆ど軟禁状態と言ってもいいぐらいだった。



 そんな中、私の唯一の癒しは、平日の朝にハルカが作ってくれる朝ご飯。



 めちゃめちゃ美味しい。


 まだ高校生だから、平日は放課後に少し仕事をして、学校のない日は丸々仕事というのが今の生活リズムらしく、毎日お弁当まで作ってて、もう本当にこんな女子力まで高いのに、なんで男なんだろうって……神絶対間違ってると思った。



 本当なら仕事がない私が作るべきなのかもしれないけど、私に料理の才能はないし、ハルカより早起きできた試しがない。



「行ってきます」


 顔がわからないようにボサボサの髪型で、さらに眼鏡もかけて、アイドルのハルカとは全然違う学生服の遙を見送って……私も少し遅れてからレッスンに行って……夕方帰ってくると、時間が合えば顔を合わせる程度で、夜は殆ど会う事はなかった。



 そして、ハルカが高校を卒業した3月。




「おはようございます、みちるさん」


「おはよう、今日も早起きね。仕事?」



「いえ、卒業記念にって、今日から3日だけ休みをもらったんです。だから、久しぶりに実家に帰ろうかと……」



 高校生じゃなくなったハルカは、これからもっと忙しくなる。

 月の半分は男として、もう半分は女として生きていた生活から、殆ど女として、ハルカとして生きていかなければならない。


 ファンの為に、お世話になった人達の為に、そうする事を選んだらしい。


 本当の自分を隠して、嘘を突き通すことを決めた彼の思いが、なんだか切なくて————



「ねぇ、私もついて行ってもいい?」




 ————私に何かできる事はないかと、思っての事だった




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