第11話 事実とは


 * * *




「——と、いうわけで、オレはハルカになったんです。って、どうして泣いてるんですか?みちる

 さん」



 すっかり伸びきってしまった麺をすすりながら、気がついたら涙が出ていた。


「いや、なんか、その、ごめんなさい……私、何も知らなくて……」


 何も知らずに、勝手に嫉妬して、勝手に陥れてやろうなんて考えてしまった自分に腹が立つ。

 なんの努力もせずに、事務所の力だけでここまで人気がでたのだと勘違いしていた。


(努力していなかったのは、私の方だ——)



 軽い気持ちで受けたオーディションで、たまたま合格して、デビューできた事に満足して。

 私はハルカみたいに、借金があったわけじゃないから、頑張ってもいなかった。


 事務所の力だけで、新人賞を取ったのは、私の方だ。



「知らなくて当然ですよ。どこにも公表してないんですから。世間では突然現れた謎の美少女ってことになっていたし。泣かないでください。ほら、ティッシュ」



「うぅ…ありがとう」


(優しいな……テレビで見た表情とどこか違う、優しい笑顔)



 ハルカの方が一つ歳下だったはずなのに、自分の方が子供なような気がしてきた。



 豪快に鼻をかんでいると、呼び出しのチャイムが鳴った。



 ——ピンポーン



 ハルカが立ち上がって、インターフォン越しに誰かと会話している。



「え、今日からですか? 早すぎません? ……え、ここで? わかりました。とりあえず、開けますね」




(誰だろう?)




 首を傾げていると、私のマネージャーである矢作さんが入ってきた。

 大きなキャリーケースを持って。


「みちる!!!全く、お前ってやつは!!!!」


「矢作さん!!?どうしてここに!?」


「どうしたもこうしたもあるか!!お前のせいで、俺まで事務所を解雇されたんだよ!!自宅から近くていい職場だったのに……」


 キャリーケースをドンっと置いて、矢作さんはハルカの方を向いた。


「あ、あの……」


 矢作さんの勢いに押されて、明らかにハルカは戸惑っている。


「ハルカさん、あんたが……あんたが男だったなんて————」



 矢作さんは膝から崩れ落ちた。



「俺どうしたらいいんだよぉぉぉぉ!!!写真集も予約してたのにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」





(矢作さん、ファンだったんだ……ハルカの)




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