第9話 英雄の条件
突然現れた、俺を助けてくれたおじさんは、あっという間に3千万もの大金を小切手で支払い、ヤクザたちを追い返してしまった。
「これでもうアイツらがやってるくる事はないだろう。安心しなさい」
助けられた事は素直に嬉しかった。けれど、オレはこの人に全く見覚えがない。
全然しらない人だ。
「あの、ありがとうございました。母の知り合いの方ですか?」
「いや、俺はただの通りすがり……というのも、語弊があるな。この際、はっきりと言おう」
懐から金ピカの名刺を出して、半ば無理やりオレに渡してきた。
「オレは君をスカウトしにきたんだ。アイドルに、
ならないか?」
「あ、アイドル?」
「そうだ。君なら、かつてのアイドル黄金時代のような、国民的アイドルになれると、俺は確信している!!」
「あの、オレ男ですけど、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ!君のような美少女であれば………え?」
おじさんはマジマジとオレを見つめる。
「今、何と?」
「だから、オレ、男なんですけど」
「男!?男!?冗談だろう!?この顔で!?」
おじさんは相当驚みたいで、全然信じてくれなかった。
「信じられない!嘘だろう!?」
「嘘じゃないですって、これだってカツラで……」
「ほえぁっ!?」
被りっぱなしだったカツラを外すと、おじさんは
奇声をあげて固まってしまった。
* * *
オレが着替えている間に、おじさんには店のカウンター席に座って待っていてもらった。
3千万も払ってもらったわけだし、おじさんはおそらくオレがアイドルとして成功することを見越しての事だったのだと思う。
おじさんの思惑どおりにアイドルはできないけど、ちょっと調べたら、かなり大手の芸能事務所の社長だった。
他にもきっと何かしら3千万を返す方法があるかも知れない。
「どうぞ」
さすがにアルコールを出すわけにはいかないので、とりあえずコーヒーを渡した。
「ああ、すまない」
おじさんは白いコーヒーカップに口をつけながら、普段着の男の姿に戻ったオレをマジマジと見つめる。
そして、しばらく何かぶつぶつと独り言を言ったかと思おうと、熱いコーヒーを一気呑みして、勢い良くカップを置いた。
「遙くん、やはり君にはアイドルになってもらいたい!!」
「え!?ちょっと待ってください!!だから、オレは男なんですって!!」
「今の時代、そんな事は関係ない!!!性別なんて関係ない!!!俺は全力をあげて、君を国民的美少女アイドルにしてみせる!!!!」
「いや、でも……」
「断るというのなら、今すぐにでも3千万円返せ!!」
それを言われたら、断れなかった。
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