第8話 青天の霹靂


「彼女じゃないです!」


 否定したが、男たちは信じてくれなかった。


 まさか、息子本人だとは言えず、どうしたらこの場から逃げられか思案しているうちに、気づけばオレは壁際で3人に取り囲まれている。

 壁の冷たさを背中に感じ、逃げ場のない恐怖に冷や汗が出た。


 パンチパーマの男は、痺れをきらし、怒号する。





「早く言え、ねえちゃん!オレたちはここの息子から3千万回収しなきゃなんねーんだからな!」



 一瞬、頭が真っ白になる————




「さ、3千万?何の話ですか…?」


 何の話だか、全くわからない。



「ここの父親が残していった借金さ……母親が保証人だったんだがよ、最近利子の返済が遅れていてな————」



(借金?父親?保証人?)



「——ちょっと調べたら、息子がいるって聞いてな。そいつにから回収してやろうって話になってんだ」



 全く身に覚えのない話過ぎて、脚の力が抜け、慣れないヒールを履いていたのを忘れていたオレは、右脚から崩れ落ちるように床に座り込んだ。


 全身の血の気が引いて行く気がした。


 青天の霹靂とは、こういうことなのだと初めて知った。




「ん?おい、ねぇちゃん……お前、もしかして————」


 金髪の男は、座り込んだオレのスカートをめくる。



「——お前、男か!!?この家の息子か!?」




 座ったことで、スカートがめくれかけ、見えた下着が、明らかに男物だった。


 それはそうだ。

 女装させられているだけで、下着なんてそのままなのだから。



「まさか……息子がこんな……オカマだったとは……」


 もう、否定する気力もない。



「まぁ、いいさ。にいちゃん、いや、ねぇちゃんのままでいいか」



 パンチパーマの男は、少し何か考えてから、ニヤリと笑う。


「こういうのが好きな金持ちなら、そこら辺にいるしな————」




(こういうの? こういうのって何だよ…!)



 もうダメだと思った。

 最悪な想像が頭をよぎって、怖くてたまらなかった。

 そんな時————




「待ちたまえ!!」




 知らないおじさんが、突然店に入ってきて




「その借金、私が代わりに払おう! だから、この子に手を出すのはやめなさい!!」




 オレを助けてくれた————


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