第6話 罰ゲーム
* * *
3年前ーーーー
街は、クリスマス一色に染まっていた。
履き慣れないハイヒールの靴のせいで、靴擦れを起こしたけど、流石に真冬のアスファルトの上を裸足で歩くわけにも行かず、オレはゆっくりとイルミネーションがキラキラ光る街中を右足を庇いながら歩く。
びしょ濡れの学ランを片手に。
(クリスマスなんて、何が楽しいのか全然わからない…そして、寒い……)
脚元がスースーする。
スカートなんて、履いたこともなかったし、こんな風通しの良いものだとは思わなかった。
(女子って、よくこれで寒くないのかな?)
ようやく近所の商店街までたどりつくと、小さい頃からよく知ってる総菜屋のおばちゃんが、オレに気がついて目を丸くしているのが見えた。
「あら?もしかして、ハルちゃん??」
「こんばんわ」
「やっぱりハルちゃんじゃないか!どうしたんだい?その格好…一体どこのお嬢さんかと思ったじゃないか」
「えーと、まぁ、その、罰ゲームで」
クリスマスイヴの今日、学校で放課後クリスマスパティーがあった。
うちのクラスの何人か仲のいいメンバーで、受験生の息抜きと称して行われたのだけど、高校受験の予定がないオレは、どうせだからと参加したけど、まさか罰ゲームで女装させられるなんて……
「罰ゲーム?それにしても、似合ってるよ!ほら、最近テレビに出てるあの何とかってアイドルグループの子たちよりも、可愛いんじゃない?」
「まさか…」
それは多分、どこで買ったのか、派手なピンクのワンピースを着させられ、茶髪ロングのカツラを被された上、将来メイクアップアーティストになるのが夢だという女子につけまつ毛もつけられたせいだ。
普通、男が罰ゲームで女装とは、似合わない事を馬鹿にして楽しむはずなのに、似合いすぎて笑えないと、誰かが言っていたな……
元々、声変わりをしてもあまり声が変わらなく、女みたいだと冷やかされるのを気にしていたのもあったし、小さい頃はよく女の子と間違われる事が多かったから、女装なんてしたいとも思っていなかったのに……
「ほら、見てごらんよ。さっきからアイドルの番組をやっててね」
おばちゃんは、向かいの電気店を指差した。
店頭にサンプルとして置かれているテレビでは、アイドルのオーディション番組が放送されている。
「全然いい子が出てこないのさ。ハルちゃんが出たら一発で合格じゃないの?」
「おばちゃん、無理に決まってるよ。オレは男なんだから」
番組は中盤に差し掛かったようで、今回の優勝賞金についての説明を、MCの女子アナがしている最中だった。
『今回の優勝賞金は、1000万円!そして、CDデビューも決定しています。果たして、この中から、未来のスターは誕生するのでしょうか!!それでは、次の挑戦者はこの方です!』
『13番、栗原みちる、16歳ですっ!よろしくお願いします!!』
(1000万円…!?そんなに貰えるのか)
歌うことは昔から好きで、歌手になるのが夢だった。
でも、うちは貧乏だから、夢を追うことは難しいと諦めていた。
高校に進学する金もないのに、歌手になんて、なれるわけがない。
女手一つで育ててくれた母さんに、これ以上負担をかけたくなかった。
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