第5話 美少女→男



 これは、一体どういう事だろうか。


 数時間前まで、今人気の美少女アイドルとして、生放送のオープニングを飾り、街行く女子達に髪型を変えて可愛いと憧れの目を向けられ、仕事帰りのおじさん達すら、透明感があっていいと褒めちぎられていた“美少女”が、今、テーブルを挟んで真向かいに座り、ボサボサの髪でカップラーメン麺を啜っているこの“男”だなんて……



「食べないんですか?」


「え?あ、はい。頂きます」



 信じられなくて、ついついジーッと見つめていた。


 3分以上たって、すっかり伸びてしまったカップラーメン麺を、同じように啜りながら、頭の中を整理しよう。





 私はどうやら、契約書にサインをした後、ハルカがあまりに別人過ぎたショックで、しばらく気を失っていたらしい。


 目を覚ますと、社長室のすぐ下の階が所属芸能人の宿舎になっているらしく、ふかふかのベッドの上のだった。


 その時、同じ部屋にいたのはハルカと、ハルカのマネージャーの小木おぎ雪美ゆきみさん。通称ユキ姐さん。

 私がハルカの楽屋に不法侵入した時、警備員を呼ぼうとしていた人だ。


 ユキ姐さんは、息子さんが熱を出したとかで、すぐに帰ってしまったけど、一通りハルカ本人から何故、女装してアイドルをしているのか教えてもらっている途中、お腹が空いて、恥ずかしいくらいぐるぐると音がなってしまい、今に至る。



 宿舎には、カップ麺などの非常食が常備されているそうだ。






「それで、えーと、どこまで話しましたっけ?」


「罰ゲームで女装させられて、借金取りと会ったところです」


「あーそうでした。そしてそこに、ちょうど社長があらわれて——」




 ハルカはテレビで聞くより少し低いけど、聴きやすくて心地よい声で、デビューする前の事を話してくれた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る