第4話 知らぬが仏
お金の力とは、本当に凄いものだと実感した。
ハルカの秘密を知ってしまい、半ば強引にハルカ側のスタッフに拉致られ、私は今、移籍契約書を書かされている。
あ、もちろんスカートはハルカの衣装の中にあったものを借りて履いています。
パンイチで契約書なんて書きませんよ!!?
もう真夜中だっていうのに、大手芸能事務所の最上階にあるとても立派な社長室で、笑顔だけど、目が笑っていない社長の
元々所属していた事務所の社長は、一体いくら積まれたのか、簡単に私の契約書を解除して、さっさと出て行けとすら言ってきた。
信じられない。
確かに、去年までは稼ぎ頭で、今年はまったく何もできなかったけど、こんなに簡単に契約解除って...
「さ、サイン終わりました」
日比野さん...日比野社長は、契約書をパッと手に取り、手早く金庫にしまった。
「さて、これで今この瞬間から、君は我が芸能プロダクション【HERO《ヒーロー》】の一員だ!」
社長はミュージカルでも始まるのかというくらい大げさな動きをしながら、来客用ソファで小さくなってる私にの周りを何度も歩き回る。
「契約通り、ハルカの性別が男である事は、絶対に誰にも言ってはならない。いいね?」
「はい…」
「もし、ハルカのこの秘密を君からバラした事が判明するような事があるとすれば、君はこの芸能界だけでなく、日本からも追放する事になるからね?」
「絶対にしゃべりません!!」
半泣きになりながら、大声で返事をすると、にっこり微笑んでとどめの一言。
「不法侵入は立派な犯罪だからね?」
(怖いよ!このおじさん怖いよ!!)
一見爽やかな笑顔だけど、やっぱり目が笑ってない。
私は、なんて馬鹿な事をしてしまったのだろう。
怒り任せに、いくら新人だとはいえ、こんな大手事務所のアイドルを陥れようなんて……自殺行為でしかない。
「もうそれくらいにして下さい、社長。何の確認もしなかったオレも悪いですし」
頭をガシガシかきながら、黒のパーカーに黒ジャージという、黒ずくめの男は、そう言いながら社長室に入ってくるなり、私の隣に人一人分のスペースをあけて座った。
(え、誰!?)
「それに、バレてしまったものは仕方ないじゃないですか。公表しましょうよ。もう、女装しなくてもオレの借金は十分に返済できたでしょう?」
(借金…?)
「それとこれとは別だろ?今真実を明かしたら、お前のファンは暴動を起こすかもしれないし、スポンサーにも迷惑がかかって、訴訟も起こされかねない。それに……」
不機嫌そうで、眠そうな黒ずくめの男に対し、社長は私に向けた笑顔とは違う、心からの笑顔で答える。
「お前ほど女装の似合うアイドルも、美少女アイドルもいないだろう? ハルカ————」
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