レジェンド・オブ・オバチャン

流布島雷輝

オオサカ・サツバツシティ


「われぇ!わしを誰や思てるんや!角夜無組の若頭やぞ!ようこんなもん食わせてくれたな!」


 夜の繁華街にパンチパーマの男の威圧的な叫びが木霊する。

 周りには彼の部下と思わしき数人のヤクザ。


「ひ、た、たこ焼きが熱いのは当たり前やないですか」

 

 彼らに取り囲まれていた気弱そうな一人のたこ焼き屋の店主が恐る恐る言った。


「なんや、うちの兄貴が悪いいうんか、われ!」

「兄貴にケンカ売るやつはいてまうぞ!コラ!」


 リーゼントの男とサングラスのヤクザがたこ焼き屋の店主にさらに威圧的な言葉を投げかける。


 周囲を通る人々もヤクザへの恐怖からか騒ぎを見て見ぬふりをして通り過ぎていく。

 そして交番の警官たちもニヤニヤしながら見物しガムを噛んでいる。

 なぜ警官たちが不思議に思う大阪を知らない読者諸氏もいるかもしれない。

 だがそれも当然のこと。

 この町ではすでに警官たちも腐敗し、賄賂が横行しているのだ。


 ここは大阪。ヤクザとチンピラに支配された殺伐なる都市。

 一般人たちはヤクザの横暴にも泣き寝入りするしかないのだ。


「まあええわ。わしも鬼やないからな。慰謝料100万払うたら許したる!払わんかったらどないなるかわかっとるやろな!」

「ひいいいいいい。そんな金有りません!」

「なかったらいくらでも作る方法あるやろ」


 ヤクザが近くにあったビールケースを蹴る!怯える店主!

 何たる外道!このままヤクザの犠牲になるしかないのか!


 その時であった!


「どないしたんや、この騒ぎ」


 そこに立っていたのはヒョウ柄の服に身を包んだ少し小太りの中年の女性。

 髪型はパーマだ!

 皆さんもご存じのとおり大阪のおばちゃんだ。おばちゃんは空気とか一切読まないぞ!


「なんやわれ!こっちはとりこんどるんや!帰れや!」


 ヤクザの一人がメンチを切る!


「うっさいわ!」


 するとおばちゃんはすごむヤクザを持っていた買い物袋でヤクザを殴打!


「おばちゃんや思てなめとったらあかんで!シバキ廻すぞ!」


 ヤクザの腹にサンダルキック!!ヤクザが吹き飛び、大きな破砕音とともに反対側のスナックの壁にめり込んだ!


「なんのつもりや!」

「いてまうぞ!」

「通行の邪魔や!」


 おばちゃんは別のヤクザに蹴りを入れる!錐揉み回転しながら吹っ飛んでいくヤクザ!

 これが大阪の戦闘民族おばちゃんや!


「くそが!往生せえや!」


 若頭が懐に手を入れ、黒光りするものを取り出した。拳銃だ!すぐさま銃撃音が周囲に鳴り響く!


「なんやチャカだしたらウチがビビる思てるんか!おおさかのおばちゃんなめとったらあかんでえ」


 おばちゃんのパンチ!「グワーッ!」パンチ!「グワーッ!」パンチ!「グワーッ!」キック!「グワーッ!」キック!「グワーッ!」キック!「グワーッ!」キック!「グワーッ!」パンチ!「グワーッ!」


 若頭は死んだ。


「ありがとうございます」


  たこ焼き屋の店主がおばちゃんに頭を下げる


「気にせんでええわ。せや、これ飴ちゃんや。あんたにあげるわ」


 おばちゃんの手から飴が手渡された。


「これからもがんばりや」


 そういうとおばちゃんは街の喧騒の中へ消えていった。

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レジェンド・オブ・オバチャン 流布島雷輝 @luftleiter

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