結末
次の日は、陸上部に見学に行ってみた。
今回は初めから体験入部ということで、体操服を着ている姿に替えて校庭に出る。
「……こんな時期に入部希望なんて、珍しいね。とりあえず、一通り練習に参加してみな」
「ありがとうございます」
というわけで、部員に混じって練習に参加してみる。
顧問の先生は割と好意的だったけれども、部員の人たちは胡乱げに私の参加を見ていた。
やっぱり、この時期からの入部は中々厳しいようだ。
とりあえず、準備運動を行って長距離に参加してみた。
力を出し過ぎないよう、周りにペースを合わせる。
正直……あんまり、動いた気にならなかった。
「……全く息を乱してないね」
不満が先行していたせいで、演技を忘れていた。
部員の人の感想に、我に返る。
見れば、周りの人たちが唖然と私を見ていた。
「いつもこのぐらいの距離はジョギングで走っているので」
「なるほどねー……もしかして、ペースを落としてた?」
「え、ええ……まあ」
ここで否定するのもどうかと思って、とりあえず肯定する。
「入部しよう!」
ガシリ、手を掴まれた。
「……え?」
「だって、水池さん、もっと走れるんでしょう?トップの面々にもすぐに追いつくよ!それで部活に入らないなんて勿体無い!」
「あ、ありがとうございます……?」
一応その場での回答は保留にさせて貰って、帰り道に考える。
剣道部にするか、陸上部にするか。
体を動かすという点では、陸上部の方が良いかなとも思うけど……どちらかというと、体験入部では剣道部に惹かれた。
よし、剣道部に入部しよう。
ということで、家族に報告をしないと。
「……部活?そんなことやっている暇があるなら、勉強しなさい。香織のようにとまでは言わないけど、恥ずかしくない程度の成績を取ってからそういうのは言いなさい」
結局、母親に一蹴されて部活に入ることは叶わなかった。
「優香。結局部活どうしたの?」
「母親に、反対されて」
「反対?」
私の言葉に、絵里と美由紀が首を傾げる。
「そう。それより、勉強しなさいって」
「はあー……部活よりも勉強、か。優香の家って厳しいね」
「まあね。出来の良い姉を持つと苦労するわ」
二人の目に、同情の色が映る。
「お姉ちゃん、そんなに凄いんだ」
「そう。……香織お姉ちゃんは、何をやってもできちゃうからね」
「香織お姉ちゃんって……水池香織?」
美由紀が、食い気味に質問してきた。
「え、ええ……そうだけど」
「うわー、知ってる知ってる。有名だよ、その人」
「やっぱりねえ……」
美由紀の感想は、むしろ納得だった。
姉は出身中学のみならず、別の中学でも名が挙がるほど有名だったのだ。
姉と同じ高校ではないけれども……というか単純に同じ高校に入れなかったのだけど……地元の公立高校に通う私は、それ故に高校で姉の名を出さないように細心の注意を払っていたっけ。
中学までは、学校でも姉と比べられて随分馬鹿にされて辛い思いをしていた故だ。
……それも、今の今まで忘れていたけれども。
それにしても、残念だ。
反対されると余計やりたくなるというのが、人の性というもの。
悶々としつつ廊下を歩いていたら、剣道部で指導しているおじいさんと出くわした。
「……水池、だっけか?」
「はい」
「部活はどうしたんだ?」
「それが、実は……」
事のあらましをおじいさんに話す。
「なるほど、な。それで、水池は剣道を学びたいか学びたくないのかどちらなんだ?」
「学びたいです」
難しい顔をして問いかけるおじいさんに、私も真剣に言葉を返した。
「……そういうことなら、土曜日にうちの道場に来てはどうだ?剣道を広めるため、老いぼれの身の道楽ということで月謝は貰っていない。なんなら、道具も道場に余っているのがあるぞ」
思ってもみなかった提案に、私は食いつく。
「宜しいですか!?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
そうして、幸運にもおじいさん……真神冬馬さんのご厚意で剣道を学べることとなった。
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